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会社の経営戦略として、M&Aを採用するか/否かではなく、「M&A方針は決まっているものの、社内でどう推進すべきか」というテーマで、コラムを書きたい。

私の経験では、M&Aをうまく活用し、成長性・収益性の向上につなげている企業は、M&A戦略の立案・実行を能動的に活用しているケースが多かった。最近この手の相談をクライアントより受けることが、あり、改めてまとめた次第。相談内容は、以下のような内容。

- 中期計画でM&A方針が決まっており、社内にもM&Aを経験する者もいるが、これまでは紹介された案件を検討し、結果的にM&Aに至ったことがほとんどだった。今後は、紹介案件だけでなく戦略的な仕掛け案件も手掛けたい。どうやって推進すれば良いか、教えて欲しい。

- 社内異動や退職でM&Aに詳しい人材が、いなくなった。戦略的に仕掛けていたこともあったが、M&A業務が属人化していたため、ノウハウも残っていない。蓄積できるような仕組みを作ることも目指して、M&A戦略・推進方法を一から教えて欲しい。


参考までに、経済産業省 中小企業庁が2024年6月28日発表した「事業承継・M&Aに関する現状分析と 今後の取組の方向性について」のP22・23の中で、中小企業限定ですが、M&Aを実施した企業の方が、売上高・経常利益・労働生産性が向上している、というレポートがあるので、ご参考まで。

あくまでも中小企業のデータですが、成長率・収益性が高い企業は、既存事業の成熟化に伴い、新製品・サービスの新規開発を進めるか、M&Aで取り入れるかという選択を考える中、両方をうまく使い分けていた印象がある。さて、本題だが、どのように効果的にM&A戦略を立案し、実行に移したらいいか。


① M&Aの推進者

 買収後にうまく事業を成長させている企業では、関連する事業部門が実質的な推進者となって進めているケースが多かった。

 一方で、M&A担当部門は、経営企画部であったり、事業開発部であったり、コーポレート部門が主に窓口や社内のまとめ役を行っているケースがほとんどであり(大企業であれば、事業部門ごとにM&A担当部門があった)、M&Aのエクセキューション時のメインは、あくまでもM&A担当部門になるので、「推進者はM&A担当部門」と見る方もいるだろう。確かに、買収までは、関与度合いからすると、そのように感じるが、買収後に対象会社を経営するのは、あくまでも関連事業部であり、やはり買収後の経営が成功することがM&Aの成功とも言えるので、長い目で見ると、推進者は事業部と考えている。

 たまに、「社長肝いり案件」としてトップダウンで決められ、引き取る事業部がなく、経営企画部管掌になるケースを見るが、買収後は非常に扱いづらい案件になるだろう。買収した企業の事業予算・事業の展開方針を経営企画で見れるのか?事業を推進する部署ではなく、あくまでもミドル・バック機能であり、事業経営までは、踏み込めないため、結果的に放置することになる。新規事業として、新たな事業部として位置づけ、事業部長を送り込み事業展開をするケースもあるが、シナジー創出はなかなか難しい。

 「買収後、誰が見るか」問題を具体的に車の運転に例えるなら、「運転席(=ハンドルを握る人)」は、あくまでも事業部門であり、「助手席」は、M&A担当部門ということだろう。買収したからといって、いきなりDay1より、事業部門にハンドルを渡すより、M&A検討中より、事業部にも積極的に関与頂くことが、買収後のスムーズなPMIにつながり、M&Aの成功確度を高めることにもなる。M&A担当部門は、あくまでも買収時までの関与であり、買収にあたっての社内の調整役・橋渡し役と言う立ち位置を忘れないことが重要。
 今の時代には見ないが、買収後にハンドルの渡し先がないということだけは、避けなければならない。
 

② どのようにM&A戦略の立案・推進をするか?(対社内)

 最も重要なことは、「事業部にM&Aを自分事として考えてもらう」こと。つまり、事業部がM&Aを自分の事業部門の事柄として、自発的に進めてもらうことが重要。

 大抵の企業は、M&Aの全社方針のもと、M&A担当部門が案件紹介の窓口となり、関連する事業部に紹介する。事業部が関心を示せば、案件を推進、順調に進めば、買収と言うことになる。このケースでは、あくまでも事業部としては、受動的な進め方であり、会社側に買収してもらえれば、売上・利益が事業部に乗っかり、ラッキー。買収後も既存経営陣に任せておけば良く、うまくいかなかった場合、「仕方がなかった」ということで、責任の所在が、曖昧になる。これでは、当然買収後、うまくいかない。
 
 では、どうするか?具体的には、事業計画や予算策定の時から、事業部には成長戦略の選択肢として考えてもらうことが重要。つまり、買収後、Day1より、買収先の予算責任は、関連事業部と明確に位置付けることができるようにする。もちろん、買収資金は無限にあるわけでもなく、またM&A資金は多額になるため、すべての事業に買収戦略を適用することはできないため、M&A部門として、予めM&A対象領域を定め、その中で対象領域に関連する事業部限定となることは、言うまでもない。
 
 各事業部からM&Aに関連する成長戦略・施策、事業計画について、M&A部門としては、M&A vs 自前でのオーガニック成長(事業投資→売上→利益回収)を常に意識し、投資効果を議論をすることが重要。
 M&Aに積極的な事業部門とは、喧々諤々、事業ポートフォリオ、ベストオーナー、ROIC、投資家が要求するROEなどを持ち込み、数値での議論を行い、M&Aへの事業責任を意識づけることが重要となる。
 また、M&Aに慎重な事業部は、自前主義の傾向が強く、M&Aを受け入れる = 自社の事業を放棄するに等しくなるため、柔軟に受け入れることがなかなか難しい(余る開発リソースはどうするかなど、問題が生じる)。良いM&A案件があるからといって、直ぐに検討する姿勢にはならないため、事業計画の作り込みのプロセスから、自前主義 vs M&A(非連続買収)の意識をさせ、M&Aを成長戦略の一つと意識させておくことが重要。

 理想的なM&Aは、事業部門から挙がってくるM&Aであり、それが会社が決めたM&A方針(対象とする領域)と一致する場合であり、そのようなM&A戦略の立案・推進するには、それまでの意識付けや準備体操(仮に見送ることになるとは言え、具体的なM&A案件で検討してもらうなど)が必要となる。
 
 

③ どのようにM&A戦略の立案・推進をするか?(対社外)

 社内、特に事業部にM&A推進への意識付けができれば、次に行うことは、対外的な動き。情報を発信しない限り、M&A案件が持ち込まれる可能性は低い。なお、持ち込まれても、社内での判断能力が必要になるので、準備体操の一環として、買収対象企業リスト(ロングリスト)作成を行う。
 
 事業部・M&A担当部門でリストを作成し、その中でも気になる企業をピックアップし、個別に調査・分析する。結果として、仮に買収した場合のシナジー創出や自社事業との親和性などを具体的に想定・検討し、興味のある企業をショートリストとしてまとめる。この検討過程の中で、ある程度判断基準や対象が磨かれていくため、事業部としても、既存取引先に対して、M&A対象とした見方も生まれて来る。
 
 この段階になって、 M&A担当部門は、金融機関やM&A専門会社に買収対象領域や事業、買収規模など、簡単にまとめた資料を用意して、配布することをお勧めする。ご存じの通り、金融機関は組織が大きく、ターゲット企業の担当者に行きつくまでに、何人も間に人が介在することになる。伝言ゲームの中で、情報や熱意が薄れたり、変わることが大いにあり得るので、金融機関やM&A専門会社の社内で容易に共有ができるように、配布するのが良い。

 自社の取引上のネットワークを経由して、ターゲット企業にコンタクトしたり、金融機関からの持ち込みが出てくると、恐らく数か月の間に、興味のある買収先の提案機会が訪れることになる。もし、ターゲット企業経営陣と面談になったことを踏まえ、出席者の選定やプレゼン準備は事前に行っておいた方が良い。

 最後に、買収企業へのアプローチにあたって、いきなり株式譲受を提案し難い場合、まずは資本業務提携から協議を始めることをお勧めする。結果的に、最初の出資や株式譲受けでは、過半数を獲得できなくとも、将来的な買い手候補の1社になることもあるので、資本関係を前提とした業務提携を提案することは良く行われる。

以上。最近は、M&Aがタブーではなくなり、「売却しませんか?」という提案がポジティブに評価されることも少なくない。また、水面下では各事業会社も積極的・能動的に買収アプローチをしかけているので、M&A戦略の立案・推進は、まずまず重要になるものと考える。





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M.A.P.管理者
株式交換とTOBの違い(2/2) ~株式交換は、買収プレミアムが低い!?~ https://maadvisoryplatform.com/u/mapcolumn/hrdrk12nsr9fnx 2024-12-21T13:00:00+09:00
意外と知られていないのが、株式交換のプレミアムは、TOBよりも低いという事実。数値上では、安く買収ができます。
経験則では、TOBプレミアムが、平均40-50%とすると、株式交換のプレミアムは平均20-30%程度。データを見てみましょう。

(A) TOBプレミアム:42.5%

(B) 株式交換のプレミアム:19.4% 


(補足)
(A)TOBの対象期間は、2024年の1年間。ディスカウントTOBは除き、マジョリティ取得を目的としたTOBであり、成立した案件を対象(計85件)にしている。プレミアムは、TOB価格を前営業日の終値と比較したプレミアムとしている。

(B)株式交換の対象期間は、2020年1月~2024年12月までの5年間、計33件を対象。持株会社化を目的とした株式交換は対象外とし、あくまでも完全子会社化(買収)を目的とした株式交換事例のみを対象。プレミアムは、売り手FAが算出した市場株価法のレンジの中央値をベースに、合意した株式交換比率に含まれるプレミアムを算出。

ご覧頂くと分かる通り、プレミアムとしては、大きな開きがある。そのGapが発生する理由について、少し考えてみたい。


①キャピタルゲイン課税の有無

前に説明した通り、この相違には、税金分による影響が大きいものと考える。

TOBの場合は、強制的に対象会社株式を売却させられ、その譲渡益部分(売却価格-取得原価)に対して、キャピタルゲイン課税がかかる、対象会社が上場会社であり、売主が個人の一般投資家とすると、約20%を納税することになる。法人であれば、法人税相当額分が納税対象。

一方で、株式交換の場合、基本的には適格優遇税制が適用されるため、売主が保有する対象会社株式は、親会社の株式に振り替わるだけで、その親会社株式を売却しない限り、納税は発生しない。

仮にプレミアム分をキャピタルゲインと考えると(取得価額=公表前の時価)、税引後の実質プレミアムは、TOB⇒34%(=42.5%×0.8)、株式交換⇒19.4%。但し、株式交換の場合、キャッシュ化されていないので、Apple to Appleの比較はできないが、TOBによる強制売却によって、納税したとしても、TOBの方がプレミアムは高水準となる。

また、TOBの方は件数が多く、株式交換は親会社や大株主により実施されるケースが多い(株主総会で承認を得られる可能性が高い)ことから、株式交換のプレミアムは低く抑えられている可能性もある。

欧米では、ハイブリッド型TOBやハイブリッド型株式交換、つまり対価が「現金と親会社株式」の組み合わせのケースも多く、プレミアムはTOB水準とほぼ同じとなっている。

なお、株式交換発表後に対象会社株価がプレミアム分だけ上がったところで、売却することもできたり、株式交換によるシナジー効果を期待して将来の親会社株価の値上がり期待のため、保有を継続出来たり、対象会社株主にとっての選択肢は増えるため、そのオプション価値も存在する。

但し、これらを踏まえても、正直なところ株式交換のプレミアムは、低く抑えられている印象はある。


②親会社による完全子会社化
 
 2020年~2024年の5年間における株式交換事例は、計33件。うち、20件は50%超を保有する親会社による株式交換。つまり、既にマジョリティ(経営権)を保有している株主による買収である。

 通常、経営権取得にあたっては、コントロールプレミアムを支払う、それがTOBプレミアムという一般的な解釈だが、既にコントロールを握っている場合については、特段解釈はないと理解している。

 TOBの場合、少数株主の締め出しコスト(仮に市場で買い上げたとしても、全少数株主から買い取る時間コストや買い上げにともない「需要>供給」による株価の上昇等)、50%超を保有する親会社によるTOB事例をもとにすると、プレミアムを支払う事が一般的と言える。従って、経営権取得以外にも過半数を保有している子会社の完全子会社化には同様のプレミアムを払うことになる。

 一方で、株式交換の場合、需給に関係なく、会社法の中で、株主総会での特別決議を経れば、完全子会社化が可能。従って、確実に賛成を得られるものの、少数株主からも賛同を得るために、「気持ち」プレミアムを乗せる程度の印象。ロジックとしては、親会社として、算定した株式交換比率を上回る比率での賛同は、株主への説明責任が果たせないという理由から、高い比率で株式を子会社株主に発行できないというロジックもある。

 とはいえ、プレミアムを考えるなら、親会社=市場株価、子会社=DCFで算出された株式価値 で比率を算定するのが自然であるが、事実そうなっていないことも多い。つまり、親会社・子会社とも市場株価、或いはDCF法でそれぞれ比率を算出しており、算定内容に所謂コントロールプレミアムが考慮されていないという事実もある。これらロジックの整理は必要と思われる。

 
③プレミアム水準が分かりにくい。

何せ株式交換のプレミアム水準が分かりづらい。交換比率の比較によるところであり、一般の株主からするとぱっと見て、「?」であり、ピンと来ない。この事情もあり、反対意見を強く出せないのではとも思う。


以上、色々と思うことはあるものの、これを是正するというより、この事情を逆手にとって、買収者は使えるならTOBではなく、株式交換を使って買収することも、買収金額を安く抑える一つの手段と考えて、選択肢にいれるのも良いのではと考える。

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M.A.P.管理者
株式交換とTOBの違い(1/2) https://maadvisoryplatform.com/u/mapcolumn/hrdrk12hbte5fu 2024-11-11T17:00:00+09:00

①買収者=上場会社
 TOBは、現金での買収であるが、株式交換は、買収者の株式を対価として、買収する。

 TOBの場合、買収者は上場企業でも未上場企業でも、資金さえあればOk。但し、持ってますと宣言するだけでなく、資金証明を開示する必要がある。一方で、株式交換は、買収者の株式が対価となるため、買収者側の株式価値がキーとなる。通常、買収者の株式は、市場株価のある上場株式となる。

 例外としては、同一親会社や身内株主間でのグループ内再編に使われる場合、IPOを目指す買収者が実施する場合に、株式交換が使われるケースがある。IPOということであれば、上場した時のキャピタルゲイン(ストックオプション)狙いということになる。
以下、株式交換とTOBのスキーム比較を参考までにまとめる。


②DD → 双方向
 実務的で地味な話だが、教科書にはあまり載っていないので、敢えて記載。通常、株式譲渡などのM&Aでは、デューデリジェンス(DD)は、買収者→対象会社の一方向。株式交換を含む、株式対価のスキームの場合、親会社株式の算定が必要となるため、買収者⇔対象会社の双方向でDDを実施する。

 但し、対象会社→買収者へのDDは簡易的なのが一般的。後述するが、親会社側は、大規模なダイリューションや株主総会を回避することが多いので、通常、買収者側の規模や時価総額は、対象会社よりもかなり大きい。従って、対象会社→買収者は非常に簡易的であり、DCF算定を行わない前提(事業計画すら開示されない状況)で、公表外の重要事実がないことのみ確認した上で、買収者の株式価値は市場株価で評価されることが多い。
 とはいえ、双方でのDDは、実務者には負担であり、相手に質問しつつ、回答もするといった、2つのボールでのキャッチボールとなるので、面倒なことだけ触れておく。


③発表後の株価の動き
 TOBが発表されると翌営業日・翌々営業日には、対象会社の株価がTOB価格まで跳ね上がり、その後はTOB価格付近で一定の推移を辿る。基本的には、TOB価格で必ず買い取ってくれる買収者がいるので、少しでもTOB価格を下回ると、裁定取引がなされ、結果TOB価格付近を推移することになる。

 一方で、株式交換の場合、確かに発表の翌営業日は、対象会社の株価が跳ね上がるケースは多いが、TOBのようにシャープに上がらないことも多い。

1つには、株式交換の基準となる価格のわかりにくさがある。TOBの場合、TOB価格があるので、対象会社の足元株価と単純比較できるが、株式交換の場合、「買収者株価:対象会社株価=1:(A)」となり、対象会社の足元株価との比較にあたり、「買収者株価×(A)」を常に計算しないといけない。

 2つ目は、基準となる買収者株価も、日々動くので、株式交換発表後の対象会社株価に連動して動くことになる。株式交換のようなM&Aは、決算発表と同時に発表されることも多く、発表の翌営業日に買収者の株価が下がることもあり、その場合、対象会社の株価の上昇も鈍い。従って、TOB価格のように裁定取引がなされているかどうかを見るには、「対象会社株価/買収者株価」の推移をグラフ化して、株式交換比率に近い動きをしているかを見る必要がある。非常に手間で、面倒。もし、対象会社の株価が低いと感じる時は、買収者側の株価も下がっていないか、その比率が公表された株式交換比率と比べ乖離していないか、など、確認する必要がある。


④アクティビストの動き
 TOBにせよ、株式交換にせよ、プレミアム水準が低く、取引成立の確度が高くない案件であれば、アクティビストの標的になるケースが多い。また、MBOや上場子会社の完全子会社化も同様にアクティビストの取引対象となることがある。多くのケースでは、既にTOB・株式交換前から株式を保有しており、株主提案を行っているケースもあるが、一部のケースでは、発表後に買い増しを行うことも多い。

いずれにせよ発表後に、①対象会社の株価がTOB価格を上回る or 株式交換比率より「対象会社株価/買収者株価」が上回り、かつ、②出来高も多い場合、アクティビストが買い占めている可能性は高いと考えて良い。

 なお、敵対的な場合、アクティビストは、数日後にプレミアム水準の低さについて、公表し、対抗姿勢を示すことが多い。


⑤アクティビストからの攻撃リスクは低い!?
 TOBの場合、TOB期間に市場でアクティビストが株式を買い集め、突如大量保有報告書が提出され、アクティビストがTOBへの反対を表明するということが見られる。また、既に存在するアクティビストが買い増しを始め、変更報告書が度々出されて、保有比率が上昇していくというケースもある。中には、応募結果を集計した後に、複数のアクティビストが登場して、その後、スクウィーズアウトに向けて連合で反対運動を行こされるリスクがある。
 何が言いたいかというかと言うと、TOBの場合、発表~TOB終了まで約1か月半、市場で売買され、株主構成は大きく変動するリスクがあるということ。TOB期間中にTOB価格よりも上下に大きく変動する、出来高が多くなるということは、株式売買が活発になっており、株主が大きく変動していることを意味する。

 一方で、株式交換はどうか。実は、発表から約1週間後に、株式交換の承認のための株主総会への出席株主の基準日を設定することができる。つまり、株主構成の変動リスクは、1週間くらいしかない。
 従って、株式交換で登場するアクティビストは、既に対象会社側にいるケースが多く、過去に株主提案などを行ったり、既に攻撃済みの状況であることが多い。そういう意味からすると、相応の事前準備もできるので、ある程度リスクを事前に測ることは可能と言える。


⑥プレミアム分の違い
 知られているか分からないが、実は株式交換の方がTOBよりもプレミアムが低い。これを説明すると、長くなるので、次回に持ち越したいが、事実として、株式交換のプレミアムは、通常20~30%程度、一方でTOBは40~50%と言われている。
 株式交換の場合、価値基準は、価格ではなく、株式交換比率という買収者の株価に対する比率であり、プレミアムが非常に分かりにくいことも、あまり知られていない原因と考える。


⑦買収者側のダイリューション(希薄化)
 買収側は、自己株式の処分による新規発行であれ、既存株主にダイリューション(希薄化)が生じる。
従って、ダイリューションを嫌う大株主がいる場合には、避けられる手法。
 なお、対象企業の買収金額が小さい場合、簡易株主交換を活用でき、買収者側は株主総会決議を経ずに取締役会決議のみで、実施することができる(反対する買収者株主は、一定期間、公正な価格で買収者に買取を請求する権利は与えられる)。

①の説明の通りだが、株主交換後の買収者の株主構成は、「既存株主」+「b)対象企業の元株主」となる。「b)対象企業の元株主」の保有割合、つまり対象会社の株式価値の大小で、ダイリューションの比率は変わる。


⑧対象会社側の株主総会の特別決議
 対象会社側は、株式交換を行う場合、買収者の100%子会社となる重要な意思決定でもあるため、必ず株主総会で特別決議(=議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上が賛成する決議)を必要とする。
 
 従って、否決されると、買収が成立しないため、必ず2/3以上の賛成が得られるかが重要な判断材料となる。対象会社が上場企業で、票読みが難しい場合、通常買収のために株式交換を実施することはない。よくあるケースとして、公開買付(TOB)を行い、議決権ベースで2/3以上の取得ができた場合、スクウィーズアウトの一環として、株式交換により、100%化することが多い。(買収者の株主と同様に、対象会社の株主も株式交換に反対の場合、公正な価値で対象会社側に買い取ってもらう権利を有する)

 ちなみに、TOBは、買付株数の下限を設定しなければ、買収者は、応募株数分を買い取り、出資比率を段階的に上げることは可能だが、株式交換では、基本的に株主総会の決議可否によって、100%すべて対象会社株式を取得するか/できないかの二者択一となる。


⑨対象会社側が株主を説得
 TOBの場合、買収者側が対象会社の株主に買収の意義と買収プレミアムをアピールして、成立させる構図となる。一応、対象会社側は、買収者側の100%買収を前提としたTOBに対して、受け身の立場で、賛同する形をとり、株主に応募推奨(売却した方が良いよとアナウンス)を行うことが一般的。

 但し、TOBの成立可否は、買収プレミアムの水準によるところが大きく、買収価格の引き上げ判断は、買収者側に委ねられるため、買収者側が買収におけるキーマンであり、対象会社株主に直接アピールして、対象会社株主がそれに応じるかを判断する構図となる。
 
 一方で、株式交換は、対象会社の取締役が、株主にアピール・説得して、議案に賛同するように直接対処し、買収者側は、プレスリリース以外で、対象会社株主にアピールしたり、直接説明することは通常なく、対象会社の背後に存在する構図となる。むしろ、既に一部対象会社株式を有する場合、株主としての立場で、自らが行う株式交換に賛成票を投じるという、株主側の立場をもつケースも多い。

 従って、対象会社の経営陣が、腹落ちした状況で、株式交換の受け入れ、買収者の100%子会社になる意義をアピールし、株式交換の交換比率も妥当であるといった一連の説明を株主に行い、説得してもらい、賛成票を投じて頂くという、対象会社側の役割が非常に大きい。
 賛成票の確保が微妙であり、株式交換の実施意義の説得力も乏しく、株式交換も渋い場合、成立の難易度は上がることになるので、対象会社の経営陣の力量も重要な前提条件となる。(通常、対象会社側の取締役も、株式交換が会社にとって最善の選択肢と断言できる状況よりも、買収者(=親会社)から言われたので、株式交換をすることになりました、という「仕方ないよね」という話の方が多い気がします)


まとめになりますが、アクティビストからの攻撃リスクが比較的少ないこと、プレミアムが低いことを考えると、所謂組織再編以外の枠組みでも株式交換を選択しても良いのでは、と個人的には考えています。

また、海外のように対価が「現金+株式」の場合でも、株式の方の税制優遇措置(キャピタルゲイン課税の繰り延べ)が認められれば、より活用されると思います。

現実として、イギリスでは、Tender Offer(TOB)よりもScheme of Arrangement(対象会社の株主総会での承認)の方が一般的なので、有り得ると思います。但し、イギリスの場合、スクウィーズアウトが厳しかったり、「現金+株式」の際のキャピタルゲイン課税の繰り延べが認められていたり、(裁判所の許可は必要ですが)株式の一部取得も認められていたり、柔軟性が高いので、使いやすいという事情はあるとは思います。

以上。
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M.A.P.管理者