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M&Aとは?|株式譲渡契約書(SPA)について②

M&Aについて
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5. 表明及び保証


SPAの中で重要な部分の一つ。まず、表明及び保証とは何か?

M&A検討段階、特にDDにおいて、様々な情報が売り手から買い手に開示される。それら開示情報が真実かつ正確に示されたことを、売り手が買い手に表明・保証することを指す。逆に開示情報は少ないものの、買い手も売り手に開示した情報に対して、同様に表明・保証する。非常に分かり辛いので、家電製品に置き換えると、製品保証書のようなもの。

これら開示した内容が間違っていた場合(表明保証違反だった場合)、どうなるか?

・クロージング前: 買い手は取引を取りやめることができる。(家電製品であれば、購入キャンセル)

・クロージング後: M&Aの場合、取引後の解約は無理なので、補償請求という形で、売り手の責任を問うことになる。(返品不可の家電製品であれば、金銭補償するという位置づけ)

従って、表明・保証は、取引解約補償に繋がる重要項目となる。なお、取引後に買い手が売り手に補償請求することになるため、例えば上場企業の合併や株式交換など、請求相手がいない場合(というより、自社自身となる)、①クロージング前の取りやめを規定するくらいとなる。


① 表明保証の範囲

非常に幅広い。例を挙げると以下のような項目がある。


売り手に関する事項

・存続及び権限: 協議中の相手である売り手って存在するよね、株式譲渡の権限持っているよね、という確認
・株券の所有: 売り手が適法に・有効に持っているよね、という確認
・法令等との抵触の不存在: 売り手が法令等に違反していないよね、という確認
・倒産手続き等の不存在: 売り手が水面下で倒産手続きやっていないよね、という確認
・反社会的勢力の排除: 売り手が反社勢力じゃないよね、また関係を持っていないよね、という確認)
・情報開示の真実性・正確性: 売り手が開示した情報って正しいよね、という確認


対象会社に関する事項

・存続及び権限: 売却対象となる会社って存在するよね、その権限持っているよね、という確認。登記簿謄本を見れば、分かるのだが、そもそものところの確認。正直大きな問題になったことはないが、確かにこれがないと不安ではある。
・株式等: 売却対象となる株式って適法に・有効に発行されているよね、他に種類株式などの株主って存在しないよね、という確認
・行政上の許認可: 事業を行う上で、必要な許認可ってちゃんと取得しているよね、という確認
・財務諸表(後発事象の不存在、簿外債務の不存在): (監査を受けていない場合)日本において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従って適切に作成されていて、適正に表示されているよね、という確認。海外から見ると、「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」って何だという話にいつもなるので、監査は受けていないが、税務上問題のない、認められた基準という話を分かってもらうしかない。
・倒産手続き: 売り手と同じ
・法令等の遵守: 売り手と同じ
・公租公課: 税金は払っているよね、税務当局から指摘受けていないよね、という確認
・紛争・訴訟手続き: 対象会社が紛争当事者でなく、訴訟されることもない、という確認
・重要な契約等: 重要な契約は適法・有効に締結されており、債務不履行も生じていない、という確認。なお、「重要」性について、金額基準を設けることもしばしばある。
・子会社・関係会社: 開示済を除き存在していない、という確認
・グループ間取引(売主又はその子会社・関係会社との契約等): 開示済を除き存在していない、という確認
・保険: 保険は適法・有効に締結されていることの確認
・労務・労働問題: 開示していることを除き、問題ないことの確認
・資産: 適法・有効に所有していることの確認
・知的財産: 適法・有効に所有していることの確認
・情報開示: 真実かつ正確に・有効に所有していることの確認
・反社会的勢力: 売り手と同じ

とは言え、全て問題ない、という会社は少なく、コンプラ上の重大な事故/クレーム、税務調査が入れば何か指摘されそう、労基が入れば未払残業代を指摘されるリスクがありそう、退職金などの簿外債務はある、など、色々と存在するはず。その場合、上記表明及び保証から除外し、それ以外は「問題ないよ」という表明・保証を行う。

それらの取り扱いは、2種類存在する。a) 退職金や未払残業など金銭的に確定できる項目は、譲渡金額から控除、b) 確定できない将来的な金銭リスクのある項目(税務リスクなど)は、所謂バスケット的な補償とは区別して、特別補償という扱いで別途生じた場合の補償を取り決める。詳細は、別途補償のところで紹介する。


②情報の非対称性の解消

M&A取引において、限られた時間内でのDDでは、完全な情報の非対称性解消は、難しい。そこで、冒頭の説明のように、表明及び保証に取引解約と補償という形につなげることで、売り手に開示を促すことにもなり、その解消効果が期待される。特に、重要なことは、売り手に「ネガティブ情報(リスク情報)」を確りと開示させることであるため、表明及び保証の仕方は非常に重要な意味を持ちます。
また、開示しきれない対象会社に関する情報を売り手が表明・保証し、リスクを背負うことで、買い手もリスクの一部を背負ってでも締結するという歩み寄りもなされ、結果として売り手・買い手双方でリスクを分担するという機能を生じさせる効果もある。


③開示された情報の取り扱い

開示された情報を表明・保証の対象にするかどうか、という論点もある。米国とのクロスボーダー案件では、Appendix.に、Disclosure Schedulesという項目が登場し、開示した資料・情報の一覧が記載される。この「Disclosure Schedulesに記載された資料・情報は、表明・保証の対象にするよ」、という取り扱いになる。つまり、買い手が知り得た情報は、表明保証の対象外にするという整理であり、「アンチ・サンドバッギング条項」とも呼ばれる。

買い手目線では、さらっと開示した項目も対象にされ、十分に検証・分析がなされていない可能性も生じることから、アンチ・サンドバッギング条項全てを受け入れることが危険な場合もある。また、買い手がDDをすればするほど、リスクを背負うことにもなりかねない。なお、交渉の中で、Disclosure Schedulesは情報を集めるのに時間がかかることから、売り手から最後の段階にさらっと出されるより、買い手の方で用意した方が良いので、このあたりは要注意。


④「知る限り」「知り得る限り」

表明保証の中でよく見かける、2つのフレーズ。これが入ると、売り手が「知らないこと」「知り得ないこと」は、表明保証の対象外にすることができ、売り手のリスクの限定化につながることになる。実務的には、売主と対象会社の距離感にも関係し、例えば売主派遣の取締役のみで、対象会社の取締役会が構成されていれば、買収後にそれら取締役が全員退任してしまうと、その限定化の難易度は上がるので、買い手としては、入れたくないところ。但し、対象会社の取締役の中にプロパーの方が居て、その方が買収後も残る場合、立証できる確度が上がることから、一部項目につき、入れることを受け入れるかなど、交渉が必要となる。
この部分は、売主がファンドか、事業会社かでかなりスタンスが異なることがある。


⑤重大性

対象会社の重大な悪影響(material adverse effect)を与えるような事象に限定して、表明保証違反とするかどうかという論点。表明及び保証には、前提条件と補償請求の2つのトリガーになるため、売り手としては、この限定はつけたいところ。なお、補償請求には、補償条項にて、金額限定というのが別途あるため、どちらかというと、「前提条件」の方に引っ掛かるような重大性が気になるところ。
従って、表明保証の各項目で、「重大な影響」や「重要な点」という表現が記載されるところが出て来る。


⑥セラーズDD

限られた時間の中で買い手がDDを行う、また売り手が複数の買い手を対応するというのは実務的に非常に大変なことから、オークションプロセスでは、予め売り手が専門家を任用してDDを行い、ベンダーレポートを用意して、そのレポートに沿ったDDを行うことがある(セラーズDD)。そうすることで、結果的にM&Aの確実性の向上が期待できるだけでなく、開示できる情報を全て開示するので、買い手には、事後的な補償請求をせず、可能な限り、買収価格に織り込んで欲しいという整理もできる。


⑦表明保証保険

補償のところで触れますが、最近は表明保証保険が登場しており、M&A後に買い手が売り手に補償請求を行い、補償する際、売り手ではなく、保険会社がその損害をカバーするケースもある。特に、ファンドのExit案件において、買い手に表明保証保険の購入を促されるケースが増えていることも、最近の傾向である。

今回は、表明・保証だけで終わってしまいました。次回は、6. 契約当事者の義務(コベナンツ)以降をご説明します。

本コラムは、「M&A契約研究(理論・実証研究とモデル契約条項) 藤田友敬 編著」を参考にしています。

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