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KKRによる富士ソフトの買収

コラム
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今回は、KKRによる富士ソフトの買収に関するコラムとなります。

※本件は、現在KKRによるTOB期間中であり、株価がTOB価格を上回る水準で推移していることから、株価に影響を与えるような表現は極力控え、あくまでもディール概要、新聞等で取り上げられている(=株価に織り込まれている)内容及び本件から見える日本の上場会社に関するM&A案件への示唆に留めたい。

以下のポイントで、本件を見ていきたいと思う。

1.買収受入のタイミング(早かった?遅かった?)

2.社外取締役の責任は、更に上昇

3.アクティビストの常套手段になり得る可能性

4.対抗TOBの展開



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1. 買収受入のタイミング(早かった?遅かった?)

正直なところ、もう少し経営陣は、粘っても良かったとは思うが、アクティビストによるプレッシャー(2社で約33%取得される)に対して、早々に白旗を挙げたように思える。

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まず、本件の一連の流れについて、おさらいしたい。
3Dインベストメント(以下「3D」)が、9.3%保有していることが判明したのは、2021年12月であり、まだ3年も経っていない。

なお、富士ソフトについては、業界内で10年以上も前から「IT企業だが、不動産の含み益を持っている会社」ということで、有名ではあった会社。20年ほど前、村上ファンドが阪神電鉄(この場合、不動産は甲子園)への買い増しを続けていたのも、同じロジック。とは言え、時価総額が1,000億円を超える会社を、同様のロジックでアクティビストが買うのもなかなか容易ではないという見方の方が強かった印象。

話を戻し、2022年2月に翌月の定時株主総会に向けて3Dが株主提案(取締役2名の選任)を行い、3D vs 富士ソフトのやり取りが始まった。2022年3月の定時株主総会で株主提案が否決された後も、3Dは更に買い増しを続け、2022年10月には21.5%を保有するに至った。

また、その間2022年8月に、富士ソフトは、企業価値向上委員会(取締役+外部アドバイザー)を設置。株主からの意見・提案を企業価値向上につなげるのが目的。この内容に落胆したのか、9月に3Dにより臨時株主総会の招集請求がなされ、社外取締役4名の選定の株主提案を受ける。

会社側も対抗して、5名の社外取締役候補者を提案するものの、うち2名は3Dが指定した取締役候補であった。
結果的に、会社側提案の5名の社外取締役を選定したことになるが、これがターニングポイントの一つと見ている。具体的には、①3D提案の社外取締役2名を選定したこともそうだが、それ以上に、②結果的に取締役数の過半を社外取締役が占めることになったことの影響が大きい。

また、不運にも2023年8月に経産省が「企業買収における行動指針」を発表し、真摯な買収提案に対しては、社外取締役のみで構成される「特別委員会」が、少数株主の利益を損なうことがないように、提案内容を検討すべきという方針を出された。これを受けた形になるのか、富士ソフトは、2023年9月に独立取締役6名から構成される特別委員会を設置した。

これにより、株主や買収者からの提案を公正に判断する必要が生じ、実質的にIn-deal、つまり売却案件のようなステータスとなってしまったことも2つ目のターニングポイント。このあたりから、外部からの買収提案を社外取締役が中心となった特別委員会が検討するようになり、取締役会も社外取締役が過半をしめていることから、社長を含めた執行側の取締役は止めることができなくなり、M&Aディールが進んでいってしまった印象を持つ。あるいは、事業会社からではなく、PEファンドからの提案のみであれば、非公開化後も経営陣の自治権が守られるため、無理して止める必要もないという考えもあったのかもしれない。いずれにせよ、非公開化 vs 上場維持という構図の中で、最終的に日公開化の方が良いという判断の下、2024年8月にKKRからのTOBを執行側の経営陣が受け入れたように外部からは見える。

なお、特別委員会が設置された後も、特別委員会メンバーは、当然ながら外部の提案だけでなく、執行側の考えやヒアリングを行う機会は再三設けられているはずで、その中で執行側のトップである社長や経営陣が、自分たちの方が企業価値を最も向上させることができるとして、特別委員会に「不動産事業のスピンアウト・SIer事業へのフォーカス・新たなソリューションの展開など」自信をもって提案すれば、違うシナリオに進んでいたかもしれない。

但し、このような状況を招いたのも、やはり保有不動産を切り離すことができず、保有することに固執し、保有を前提とした企業価値向上シナリオが、結局他の投資家・株主からの信頼を得られなかったことが一番の原因と個人的には思う。このような状況においても「不動産の魅力を高めることが社員の満足度や優秀な社員の確保につながり、企業価値向上に資する」というロジックは、定量的に示すことができない以上、やはり説得力に欠けるし、個人投資家も含め、3Dの主張の方がもっともらしく見えているのだろう。


タラレバ議論だが、アクティビストも経営陣とガチンコの応酬の中、膠着状態になると、中途半端な比率での長期保有は、投資リスクにつながるので、経営陣が急がなければ逃げ切れたのかもしれない。(その場合、結局3Dの持分を自己株取得することになるが)

一連の流れを見ると、経営陣は3Dの対応に嫌気を指し、株主対応に疲弊したこと、上場維持するよりも、一旦非上場化し、大切な不動産事業を抱えておく、という選択の方が経営陣にとっては良かったという事なのかもしれない。特別委員会設置後に、もう少し粘れば、上場維持もできたかもしれなかったと思わなくもないが、気力が続かなかったのかとも感じる。

いずれにせよ、この期間も業績は絶好調、右肩上がりだったので、執行側のどのような事業提案も通る可能性は高かったが、不動産に手を付けたくなかったのか、或いはアクティビスト対応に疲弊したのか、そのように見えてならない。

参考までに、Valuationや株価推移を見ても、割高感はあるので、時間の経過とともにDeal感がなくなってくれば、株価は落ち着くこともあったかもしれない。

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いずれにせよ、大きな2つのターニングポイント、それらの対応が今のTOBに繋がっており、経営陣もこれが最適解とすれば、結果オーライと言えよう。


2.社外取締役の責任は、更に上昇

取締役の責任限定契約や取締役保険があるにせよ、一歩判断を間違えると、多額の賠償リスクを背負うことになるので、本件における社外取締役の責任は極めて大きい。

TOBへの賛同表明や対抗TOBへの対応を考えると、取締役会は当然のことながらも、「答申書」の取締役会への提出という形で、実質的にTOBや買収提案の判断を行う「特別委員会」の方が責任の重さは大きくなっていく傾向にあるものと思われる。

判断が難しい案件になると、社外取締役だけでは困難である為、対象会社よりも「特別委員会」のFA(フィナンシャルアドバイザー)やLA(リーガルアドバイザー)の方が重要になり、単に企業価値算定だけでなく、案件を俯瞰して、特別委員会に対して、総合的なアドバイスを行う必要性も上がってくると感じる。


3.アクティビストの常套手段になり得る可能性

一方で、今回3D及びFarallonが、今回Exitに成功すると、更にアクティビストの日本市場への呼び水になり、またアクティビストに投資運用会社からの資金が集まって、更に日本の上場企業へのアクティビストの攻勢が高まるものと感じる。特に、事業会社で事業用とは言えない不動産を抱えている、老舗の上場企業は要注意である。

不動産を多く抱える上場企業に対しては、今回の富士ソフトのやり方は常套手段になり得るものと思われる。(現に、サッポロホールディングスに対して、3Dがプレッシャーをかけている。個人的に恵比寿ガーデンプレイスのあの贅沢な不動産の使い方は、気に入っているので、あれを商業主義全開で、建蔽率ギリギリのタワマンを立てることだけは、止めて欲しいが、時代の流れには逆らえないのかもしれない。。)


4.対抗TOBの展開

KKRによるTOB発表後も、2024/9/3のベインによる対抗TOBのプレスリリースもあって、TOB価格8,800円を上回る株価で推移している。

TOBに関しては、テクニカルなことも多く、詳細を突っ込めばキリはないが、目先最も注目するポイントは、TOB期間の最終日である2024/10/21の前にベインがTOBを発表し、3DやFarallonの応募契約の解約を狙いに来るかどうか。いずれにせよ、今後目が離せない展開となる可能性がある。
*今は、TOB期間であり、余計な推論をして株価に影響を与えることは本位でないので、今回はこの程度にコメントをとどめたい。


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以上。

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