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Valuation(企業価値評価):第2回 WACC

M&Aについて
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WACC
について、今回はご紹介。WACCについて、事細かに説明するというより、ポイントを説明したい。

①WACCとは?

 最近は、WACC(ワック)という言葉を上場企業のIR資料等でもよく目にするようになった。資本コストを意識した、効率性を重視した経営がようやく定着してきたとも言える。WACCだと、FCFベースで分かりづらいので、ROICの方を使うことも多い。ROEも含め、いずれの指標も資本コストを意識した経営に変わりないので、投資家目線では良い傾向と言える。

 さて、本題。WACC(Weighted Average Cost of Capitalとは、加重平均資本コストの略で計算式としては、以下の通り。シンプルな説明として、会社側目線では「資金調達の際に係るコスト」。投資家の目線では、「期待収益率」。つまり、投資家の期待収益率をKPI目標にして、経営するという考えとも言える。

 業界により差はあるが、時価総額1,000億円以上の大手上場企業であれば、5%~10%程度。上場したばかりの成長企業や新興国の成長企業であれば、10%を超えることも良くある。WACCの計算は以下の通り。

WACC = [ Ke × E / (D + E)] + [Kd × (1-T) × D / (D + E)]
    = Ke(株式コスト)と Kd(負債コスト) の加重平均 


②WACCへの基本的な理解(PER・事業計画・株式価値との関係性)


 計算式について、参考書・ウェブサイトなどで調べれば、すぐ出てくるが、慣れていない方は、この計算や算出される数値の意味が分からない。長い期間(少なくとも3年以上)マーケットウォッチをしたり、DCF法による株式価値評価を何度か行わないと、残念ながら手触り感は掴めない。

 まず、シンプルな理解として、WACC = PERの逆数 と考えてもらって良い。恐らく、感覚的にWACCPERと繋がると、瞬時に理解はできないだろう。WACC・PER・株式価値の関係は以下の通り。

株式価値 = 将来の純利益 × PER 

事業価値 = 将来のFCF / WACC  



一つずつ見てみよう。「FCF = NOPLAT - 投下資本増加額」であり、「NOPLAT」= 「税引後営業利益」のこと。つまり、特損がない状態では、当期純利益に等しい(正しくは、支払利息分だけ異なる)。投下資本増加額は、定常状態では±0と置くので、乱暴に扱うと、「FCF = 純利益」と置き換えられる。

ここで「定常状態」という概念が登場する。DCF法では、「事業価値=将来のFCFの現在価値の総和」と定義されるが、実際には将来のFCF(予想利益)を「n年後」まで策定することはしない。通常、3~5年間の事業計画を策定し、その最終年度のPLを定常状態として、「n年後」まで一定の成長率(=永久成長率)で成長すると仮定する。定常状態のPLでは、収益構造(利益率)や設備投資額の割合は、変わらず一定とする。

最後に、事業価値 = 株式価値+有利子負債となる。FCFは支払利息を控除していないため、WACCで割り引くと事業価値には負債の価値がが含まれることになる。日本企業は負債を抱えていない企業も多いため、ざっくり頭で計算する際は、事業価値 ≒ 株式価値として頭で整理する。

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例えば、WACCを計算した結果、8%と出る。すると、PER12.5倍となる。。。ん~そんなものかと。また、ベンチャー企業の場合、WACCは高く出る(借入コストが高い = 期待収益率が高い)ため、12.5%となる、すると、PER8倍か。。。ん??何かおかしくないか?そう、おかしいのである。

通常マーケットで評価されるベンチャー企業のPERは、20倍+というのが通常なので、8倍であるはずはない。とすると、何が違うのか?答えは、分子の「将来のFCF」が違うから。

つまり、「WACC = PERの逆数」が通用するのは成熟企業であり、事業計画における将来のFCFがほぼフラットの場合に適用できる。これは、債券価値の時価評価と同じである。

一方で、ベンチャー企業の事業計画の利益は、Jカーブとなり、定常状態(10年先?)におけるFCFは、今期/来期の利益の何倍も大きな数値となる。従って、ベンチャー企業の場合、WACCが12.5%、PERが8倍としても、相対する「将来のFCF」「将来の純利益」は大きいので、株式価値が大きくなる。逆にいうと、市場では今期/来期の純利益しか公表されないため、その利益に対するPERは高くなるということになる(裏では、まだまだ純利益が伸びるという思惑があり、先食いしていると整理できる)。

また、もう1つ、WACC水準がどうであれ、DCF法の株式価値評価が、PERなどのマルチプル法よりも高く算出される。理由は、2~3年目以降の純利益(FCF)予想を評価に入れているからである。教科書では、ここの部分の価値をコントロールプレミアムと言い、事業をコントロールできる者が享受できる価値と紹介される。なお、2~3年目、それ以降の事業計画がフラットになる時は、評価されるDCF法の価値は、PER(マルチプル法)評価と同じとなり、半永久的に事業計画の利益水準が減益傾向のDCF法に依る事業価値は、PER評価以下となる。

WACCを算出した時点で、株式価値評価の概算を掴むため、事業計画最終年度のFCF(or 純利益)をWACCで割り引いてみる(= 純利益/WACC)。上記事業計画における利益成長と算定された株式価値を踏まえ、PER評価よりも高い/低い、その度合いで、DCFによるValuationの感覚を身に付けると良い。


③β(ベータ)について

CAPM(Capital Asset Pricing Model)理論に基づき、

Ke(株式コスト)= Rf(リスクフリーレート) + β × (Er – Rf)(マーケットリスクプレミアム)

と表わされる。

リスクフリーレートは、安全資産から得られるリターン(国債などの利息)であり、マーケットリスクプレミアムは、株式市場で運用した場合にそのリスクフリーレートよりも超過して得られるリターンとなる。

少し式を紐どくと、Er(エクイティリスクプレミアム)は、株式市場で運用した場合に得られるリターンであり、「株式市場で運用」とは、市場平均での運用、つまり国内であれば、TOPIXや日経平均で運用した場合に得られるリターンとなります。日本では、5%程度と言われます。各国のErを公表しているサイトがあるので、ご参考まで(https://pages.stern.nyu.edu/~adamodar/New_Home_Page/datafile/ctryprem.html)。

なお、株式市場での運用となりますので、バブル崩壊など、期間によっては損を伴うこともありますが、長期間運用し均すと、5%となります。「ハイリスク・ハイリターン」ということですね。

さて、要約「β」の話になりますが、β(ベータ)とは、市場平均リターンよりも、超過する個別銘柄のリターンの割合。つまり、「β」個別銘柄のプレミアムと言うことになります。銘柄によっては、市場よりも高い/低いリターンを出しており、それを「β」と表します。数値で表すと以下の通り。

β =「1.0」 ⇒ ニュートラル状態(市場平均と同じリターン)

β >「1.0」⇒ 市場平均よりも高いリターン

β <「1.0」⇒ 市場平均よりも低いリターン


以下のサイトより、様々な期間で個別銘柄のβを取得できます。
https://costofcapital.jp/beta/historicalbeta/

個別銘柄を見ると、面白いのですが、例えば、JT(日本たばこ産業)は、βが1.0を大きく下回っているのに対して、半導体銘柄の東京エレクトロンが1.0を大きく上回っています。

従って、評価対象会社が成長分野となると、βも大きくなり、敷いてはWACC自体が大きくなる投資家による期待収益率も大きくなる)、と言う構図になります。

また、事業価値 = 将来のFCF / WACC の計算式から、WACCが大きくなると、事業価値は小さくなるので、投資家による期待収益率を上回るFCF成長(事業計画における利益成長)を達成しないと事業価値(株式価値)は大きくならない、という関係になります。株式価値を上げるというのは、類似・競合する他社以上に利益成長率を上げるということと言えます。


④サイズリスクプレミアム

小さな企業には、更にプレミアムが要求される
という考えがあります。実際の株式市場におけるデータより、時価総額が小さな銘柄ほど、大きなリターンが発生したという結果があり、CAPMだけでは説明ができない超過リターンである。この超過リターンをサイズリスクプレミアムと定義し、株式コストに加算することで、調整することが実務的に行われる。日本のサイズリスクプレミアムについては、Ibbotson Associatesよりデータ購入可能。

Ke(株式コスト)= Rf(リスクフリーレート) + β × (Er – Rf)(マーケットリスクプレミアム)+サイズリスクプレミアム

理解としては、仮に全く同じ事業・収益構造の2つの上場企業が存在し、時価総額だけ異なる場合、時価総額が小さな上場企業の株式コストの方が高くなるという整理。理由としては、規模が小さいだけに、倒産コストが上がる=リスクが高い=より高いプレミアムを要求されるから。

時価総額基準はいくつか存在するが、約200億円以下の上場企業は、3%+程度の追加プレミアム(WACCが上昇)が発生することとなる。

算出される株式価値の調整弁として使うケースも昔はあったが、今では機械的に時価総額水準で判断し、該当する場合、採用することが一般的となった。

以上

 

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