M&A事例: トップカルチャー(7640)によるトーハンへの第三者割当(2023/8/17)
JDSCに続いて、第三者割当特集です。今回は、2023年8月17日に発表された、トップカルチャー(7640)によるトーハンへの第三者割当です。
ポイントは、3つ。
(1)大幅な事業転換を伴う増資
(2)大幅な希薄化が発生(発行済株式数の25%以上の希薄化)
(3)中期計画も同時発表
既存株主への株主・投資家へのエクイティストーリーの説明、既存株主への配慮、株価への拘りなど、現在、大きな業界変化の中で、事業転換に取り組もうと考えている企業への示唆になることが多い。なお、大幅な希薄化が発生するので、既存株主からすると、本当に大丈夫なのか、場合によっては差し止めによって、中止させ、他社に身売りした方が良いのではないか、というリスクもある中で、現経営陣が考える経営戦略が一番だ、というシナリオのもと、入念に検討された増資だと思う。オーソドックスな第三者割当増資ですが、学ぶところは多いです。少しかみ砕いてみましょう。
(1)大幅な事業転換を伴う増資
①スキーム
まずは、スキーム説明。これはシンプルな第三者割当増資で、上場企業であるトップカルチャー(7640)が、普通株式の新規発行によって、取引先のトーハンを割当先とする第三者割当を実施するもの。ロジックとしては、トーハンに割り当てるとともに、協働することでEPS(1株当たり利益)を増資前よりも上げ、株価を上げること。明確に言わないものの、そのイメージが既存株主や投資家に伝わらないと、差し止めリスクが生じる。
②発行価額
公表前日(8/16)株価(190円)もしくは、条件決定日(8/23)のいずれが高い方。同時に発表した中期計画への評価を見たいのかな。ちなみに、8/18終値は190円。
(2)大幅な希薄化が発生(発行済株式数の25%以上の希薄化)
①意見書の入手
東証が定める第三者割当のルールでは、希薄化率が25%を超える場合、1)株主総会で株主から賛同を得るか、2)独立した者からの意見書入手が求められる。
今回のケースでは、トップカルチャーの社外取締役・社外監査役から意見書を入手。なお、意見書には、「必要性及び相当性」の記載が求められ、この新株発行による資金調達が「経営陣の保身ではなく、あくまでも株主価値増大に寄与する」というストーリーが必要であり、それを第三者が認めている構成が求めれられる。(そうでないと、既存株主からの差し止め請求に耐えられない)
②必要性・相当性
具体的には、必要性・相当性を説明するには「調達資金は将来的な投資に使われること」「借入や他のファイナンス手法よりも第三者割当増資が妥当」というロジック作りが必要となる。従って、資金使途を「借入返済」「運転資金に充当」となると、トーハンからの調達ロジックが弱くなったり、割当先を「経営陣」にすると、保身に映るので、説得力に欠ける。
特に今回は、25%を超える希薄化率かつトーハンは筆頭株主になるので、既存株主への説明責任は相当なものとなる。従って、確りとした説明が求められる。
(3)中期計画も同時発表
①ストーリー作りのためのツール
上記(2)の通り、中計を同時に発表したのは、必要性・相当性の説明ロジックを構成する上で、必要な「ツール」であるため、特に既存株主への説明には、欠かせないパーツとなる。
教科書通りの第三者割当ですが、中期計画も入念に準備しながら、割当先との交渉、既存株主への説明など、思い立ってできるスキームではないので、少なくとも3~6ヵ月前から準備を開始する必要がある。
なお、それでも差し止め請求が来た場合、発表日から払込日までの間に、裁判所は決断をしないといけなくなり、迅速な対応が必要となります。今回は、払込日が9/29(独禁法の届出のため)と長いので、まだそこまでではないですが、独禁法上の届け出が不要で、会社法上の決議から払込日まで、中14日という最短日程の場合、かなりタイトとなります。(金商法に基づく、有価証券届出書の効力発生も短縮が認められる場合)
具体的には、一例ですが、以下の日程感で対応しなければならない。
8/21月~22火 裁判所から差し止め請求の事実を伝えられ、請求理由への説明が求められる。提出期限は2日営業日後。
8/23水~24木 裁判所に回答・関連資料を提出。
8/24木~25金 裁判所から2回目の説明・関連資料が求められる。提出期限は、翌営業日。
8/25金~28月 裁判所に2回目の回答・関連資料を提出。裁判所からの呼び出し。
8/28月~29火 裁判所で株主と対峙。
8/29火~8/30水 裁判所により、差し止め請求棄却or認定の判断。
9/1金 払込日
ということで、もし差し止め請求の申し立てリスクが高い場合、事前に万全の準備体制を整えて、望む必要がある。私も昔苦い経験があり、この2週間、クライアントの事務所&近くのホテルでの泊まりこみ対応を行い、夜な夜な大量の資料コピーを行いました。
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(続編)8/24 条件決定の発表リリースがあり、発行価額は190円に決定しています。
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