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企業買収における行動指針

M&Aについて
zhgxrv9kyv88xp2h988t_320_400-abd19e6e.jpg2023年8月31日に、経済産業省が、『企業買収における行動指針 ―企業価値の向上と株主利益の確保に向けて―』を公表。

これまでの方針に沿った内容で、特に目新しさはない。

いくつか、分散していたM&Aに関する対応指針の内容を、今回の敵対的買収の対応にアップデートしたり、項目を詳細にブレークダウンしたという印象。

但し、取締役としての責務に重みが増し、敵対的な買収であっても、確り検討や開示に取り組むように文章で明確にされたり、社外取締役の役割・責任が重くなっていることで、経営者としてのやり辛さが増していることは事実。買収者にとっては、より買収提案し易い環境が整っているともいえる。

敵対的買収者に対する企業側の対応方針以外では、「企業価値報告書」や「MBO指針」などを通じて、会社側が企業価値、すなわち株主価値を毀損させないための指針を打ち出すなど、経済にとって望ましいM&Aを促してきた。ここでいう、企業側はあくまでも上場企業を想定している。非上場企業は、基本的に対象外。但し、非上場会社でも有価証券報告書を提出している、株主数が多い会社は、対象になる可能性はある。

加えて、冒頭では『PBR1倍を下回る上場企業が多い』『企業成長のためのM&A活用への更なる期待』『M&Aの活発化は経済社会全体にプラスになる』という前提で、更なるM&A促進のための行動指針をまとめているという位置づけに思える。

経済産業省としては、アクティビストや敵対的買収を真っ向から否定するものではなく、公正なルールに基づくM&Aであれば、むしろ『日本の資本市場における健全な新陳代謝にも資する』としている。

この行動指針の中で、興味深いポイントを挙げてみたい。

①企業価値

『企業価値は定量的な概念であり、対象会社の経営陣は、測定が困難である定性的な価値を強調することで、企業価値の概念を不明確にしたり、経営陣が保身を図る(経営陣が従業員の雇用維持等を口実として保身を図ることも含む。)ための道具とすべきではない。』という内容が本文にある。

これだけ見ると、経営陣が従業員の雇用を守る、というだけでは、ただの保身と映り、雇用確保がいかに企業価値に向上につながるかの説明も求められる。一方で、敵対的買収者によるリストラの方が企業価値向上に資するなら、それは認められるM&Aともなる。いずれにせよ、買収によってステークホルダーとの関係に影響が生じても、それが企業価値向上に資するなら、それは認められるべきM&Aという整理。

余談だが、セブン&アイによるそごう西武の売却の話で、久しぶりのストライキがメディアを騒がせたが、仮に余剰人員が存在し、それをリストラした方がそごう西武の企業価値が上がるの出れば、今後フォートレスのリストラは、正当化されるということになる。(感情的に「可哀そう」や「経営者は雇用を守るべき」というのは、経済全体からするとむしろマイナスであり、新陳代謝にもならないので、実はセブン&アイの決断の方が支持されるということになる。ひと昔は、メディアも騒ぎ立てたが、今はそれほどでもない。個人的には時間が解決するものと思う)


②真摯な買収提案

買収提案を正式に受け取った経営陣・取締役は、取締役会への報告が義務付けられる。オーナー系の上場企業で、社長が受け取った買収提案を「ふざけるな」と言って、ポイっとゴミ箱に捨てることは許されない。

提案書を企業価値の向上に資するかという観点で、外形的・客観的に評価しなければならない。具体的には、買収条件(買収価格・時期・その他条件)、買収者名、買収目的、買収の蓋然性(M&A実績や資本力等)、買収後の経営方針、転売ヤーかどうか、を見て、判断することになる。それらの観点で検討に値する買収提案を「真摯な買収提案」として、取締役会に付議することが求められ、取締役には「真摯な対応」が必要とされている。検討や対応にあたって、M&Aの専門性が不足している場合、外部アドバイザーの助言受入も検討する必要がある。


③社外取締役の役割

最近の社外取締役の役割の拡充・責任の重さもここでは反映されている。具体的には、事業面の交渉は経営陣で行っても、利益相反の程度によっては、価格などの買収条件の検討・交渉は、社外取締役や特別委員会が実質的に関与することが望ましいとされている。社外取締役が取締役会の過半を占めていない会社では、より関与の重要性が問われている。

また、買収提案の検討段階において、他の潜在的な買い手候補がいないか、マーケットチェックを行うことも合理的な方法の一つと示されている。

社外取締役には敵対的買収者の買収提案を客観的に評価できる能力や経験が求められることになる。


④買収条件

買収価格が魅力的でも、買収条件次第では、株主利益には不利なこともあるので、その点は見極めるように注意を促している。

具体的に、TOBにおける部分買収となると、応募した既存株主は最終的に応募株式数の按分での売却を余儀なくされ、一部株式が手元に残ることになる(買収価格で全て売却できないことも十分に考えられる)。

また、2/3以上を取得した買収者は、スクウィーズアウトによって、残りの株主から強制買付を実行できるが、その買収条件を予め決めていない場合も、強圧性のある買収として既存株主に不利に働くこともある。(通常はTOB時に二段階目の買収条件も提示する)

また、一部を現金買取ではなく、買収者の株式を対価として買収する場合も、買収者の株式価値を評価する必要があり、株主にはハードルが高い。

これら買収条件の分析は専門性を必要とするため、経営陣には判断が難しい場合も多い。


⑤情報開示による透明性

株主が買収提案を判断できるように、買収者及び対象企業には、買収に関する情報開示を求めている。通常の大量保有報告書や公開買付届出書での記載充実もそうだが、具体的な買収提案がある場合のTOB予告も公表すべきとある。

最近では、新聞や経済誌がすっぱ抜き記事を出す場合が多く、これらリーク対応(一昔のように全面否定はできない)も必要であることから、有事に陥った際の買収者・特に対象会社での開示体制は、更に強化が求められる。

最後に開示内容だが、最近のTOBプレスリリースでは、TOB発表に至る買収者からの水面下での接触・提案・対象会社との協議内容は、詳細に記載され、公表される。以前は、取引所にインサイダー規制の関連で提出していた位であったが、公知の事実とされるため、それを踏まえた対応も意識が必要となる。ちなみに、米国の場合、交渉が途中で決裂した他の買収候補者とのやり取りや具体的な買収条件(価格も含め)も逐次発表される(さすがに社名は伏せられているが)。タイムリーで開示されることで、進行中のオークションプロセスの状況が分かるため、更なる買収候補者の出現もあり得るなど、情報開示における透明性は一歩先を行っている感じがする。


いずれにせよ、『真摯な買収提案』を受けた際は、感情に任せて無碍な扱いができなくなっており、より買収者には同意なき買収がしやすい環境になっているように感じられた。

以上

 
 

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