M&A事例: ベインキャピタルによるT&K TOKA(4636)に対するTOB(2023/8/17)
2023年8月17日に公表された、ベインキャピタルによるT&K TOKA(4636)に対するTOBについて、少し取り上げたい。
本件のポイントは、以下2点。
① アクティビストがもたらした非公開化
② 日本でのTOBが中国関係会社のTOBも誘発
上場企業の多くのM&Aにおいて、アクティビストが起因となるケースが本当に多くなった。数年前までは、大手企業に限られていたが、今回のように数百億円の時価総額の企業まで降りてきている、という印象。
上場会社数の多さ、新陳代謝が置きづらいマーケット、業界再編も進まない、Valuation的に放置されている銘柄の多さなど、欧米に比べまだまだ日本は、閉鎖的なマーケット。英語での情報開示が進んでいるとは言え、資料を英語にしてウェブサイトに載せている程度であり、多くの上場企業では、会話は基本的に日本語であり、海外からは本当に分かり辛い市場と言うのは、投資銀行にいる頃から、非常に感じていた。
その一方で、アクティビストが各銘柄でそれら閉鎖された情報を紐解いて、海外の投資家に情報を配信し、マネーをこのマーケットに流入し続けているのは紛れもない事実。日本政府も、アクティビスト含め、外資マネーはウェルカムだと思うので、今後も上場企業におけるM&Aは、アクティビストが起因になる傾向は続くし、PEファンドのように、むしろ更に増加するものと思料。
本件に戻って、少し中を見てみたい。
① アクティビストがもたらした非公開化
開示資料を遡ると、ダルトン・インベストメントが5%超を保有して大量保有を提出したのが、2012年6月。そこから10年以上かけて、今や19%保有。ちなみに、ダルトンは「Nippon Active Value Fund plc」という日本で過小評価されている小型銘柄にフォーカスしたファンド(同じく2.3%保有)を2020年2月にロンドン市場へ上場させている。
2019年6月の株主総会で、ダルトンは社外取締役1名の派遣に成功。2022年の総会で退任。
2023年1月、表向き、突然ダルトンが、Nippon Active Value Fund plcを通じて、持分含め上限44%になるように、T&K TOKAへのTOBを発表(@1,300円)。結果、失敗に終わるものの、経営陣の危機感がMaxに高まったのは言うまでもない。調べる限り、過去を含め、会社側は買収防衛策は導入していない様子。
そして、今回のベインによるTOB(@1,400)&非公開化の発表。
発表資料から分かったことは、実際ダルトンは、突然TOBを実施したというより、2022年6月に派遣していた社外取締役の退任以降から予兆はあった。2022年9月にダルトンの意を組んだファンドからの非公開提案があり、水面下でやり取りがなされている。恐らく、様々なケースを想定し、事業会社を含めたホワイトナイトの検討を行ったものと思われる。その中で、他のファンドとも非公開化の話を並行して進めており、そのうちの1社であるベインとは、2022年12月に初回面談を行ったとあった。
タラレバにはなるが、もしかすると、社外取締役の派遣が継続されていれば、ダルトンはもう少し長期的に保有し、TOBへの舵を切らなかったかもしれない。しかしながら、会社側からすると、経営のやり辛さはあるし、常にプレッシャーを受け続けることへの辛さもあったのだろう。
一昔前なら、日経新聞やメディア、世論を含め、このようなアクティビストへの動き(特に敵対的TOB)には反発もあったが、今では当たり前、むしろこれまで企業価値向上を怠っていた経営陣が悪いよね、という風潮にさえ感じられることは、長い目で見るとゆっくりながらも、大きく動いていて、その遠心力が小型の銘柄まで影響が出ていることを改めて感じた。
これで終わりになるか。まず、ダルトンがどういう反応をするか。自らは、TOB価格1,300円と主張したが、安いと言って、吊り上げ策に出るか。また、日本では本格的な上場企業のTOB合戦を見たことがないが、Strategic Buyerとして、事業会社が手を挙げたりしないか。この辺りは、引き続き見ていきたい。
② 日本でのTOBが中国関係会社のTOBも誘発
発表資料を見て、「ん?」と思いましたが、私も初耳でした。T&K TOKAが保有する、中国の持分法適用会社だり、上海に上場している関係会社(33.5%保有)の影響で、TOB開始が2024年1月になる予定。
このまま、TOBを開始し、T&K TOKAの支配権を取得した場合、中国のTOB規制により、その中国の関係会社もTOBをしなければ、ならないという事らしい。これは、なかなかの盲点なので、私も勉強になりました。
従って、30%未満にするための売却期間が必要となり、TOB開始を2024年1月とした模様。
当該中国企業の1日の平均出来高を見ると、約0.7%くらい。市場でちょこちょこ、株価に影響しない範囲で証券会社が売却する場合、日々の出来高の5%~10%。真ん中の日々の出来高の7.5%を毎日売却すると仮定すると、3.5%の持分を売却し、保有比率30%未満にするのにかかる営業日数は、3.5%÷0.7%÷7.5%=66.7日なので、4か月見ておくのが妥当というのは、その通りかもしれない。
本件でのLesson to Learnはこのあたりですね。
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