段階利益
PL(損益計算書)には、色々な利益が登場する。経験を踏まえ、特に重要な段階利益に関するコメント、利益の意味するところ、M&Aにおいて重要な指標の利益について、紹介したい。
(1)利益とは?
利益は、売上高ー費用のこと。稼いだお金から、稼ぐのにかかった費用を差し引いた残り分。当たり前の話だが、費用には色々な種類があるため、それぞれ異なる費用を差し引くと、残った利益も異なる。PLでは、費用を上から段階的に引くため、その途中に登場する売上総利益、営業利益、経常利益、当期純利益は、段階利益と呼ばれる。
(2)売上総利益
粗利と呼ばれ、売上高ー売上原価 = 売上総利益となる。売上に直結するコストを除いた、PLに最初に登場する段階利益。いくらで作ったもの(製造コスト)をいくらで販売しているか?メーカーをイメージすると、売上原価は、製造する工場に掛かるコストであり、本社や研究所のコストは含まれない。商社や小売りの場合、内製品はないので、売上高ー仕入原価(+付随)となる。業界によって、売上総利益率は、異なる。例えば、トヨタ19%、ソニー28%、ユニクロ50%、キーエンス82%、セブン&アイ31%、資生堂75%といった具合。
(3)限界利益
限界利益 = 売上高 - 変動費のこと。つまり、固定費控除前であり、変動費だけ除いた利益を限界利益と呼ぶ(限界利益=売上高ー変動費)。これが赤字だと、事業として話にならない。シンプルには、60円(変動費)で材料を買ってきて、作って、100円(売上高)で得ると、限界利益は40円。これが赤字だと、材料費以下の金額で販売しており、お金を付けて売っているようなもので、ビジネスとは言わない。経験上、製造業では、40%が目安ライン。つまり、営業利益率10%を目指すなら、固定費は対売上高で30%くらいのイメージ。昨今インフレが進む中で、材料費や動力費が上昇すると、変動費が上がるため、指標としては無視できない。フォームラ化され、自動的に売価に転嫁できるなら気にならないが、最近消費財メーカーがこぞって値上げをしているのは、インフレや円安により、変動費が急上昇しており、利益では吸収できない状況になっている背景がある。
(4)EBITDA
Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortizationの略。支払利息、税金、減価償却費・のれん償却費前の利益。実務上は、「営業利益+減価償却費+のれん償却前」として計算される。これは、キャッシュフロー(CF)計算書の「営業活動によるCF」の簡易版と言え、運転資本の増減を除くと、ほぼEBITDAとなる。計算も比較的簡単であり、企業から生み出される営業CFと言えるため、M&Aの価値評価の重要な指標となる。なお、EBITDAがマイナスということは、営業利益は何とか黒字であっても、償却費を賄うキャッシュが生み出されていないということを意味するため。持続可能な事業でないともいえる。
(5)営業利益
営業/事業活動によって得られた利益であり、売上高-売上原価-一般管理費で計算される。一般管理費は、直接製造活動には掛からない費用であるが、管理部門など、従業・会計・総務などの間接業務のコストのこと。つまり、売上高から製造・営業・運営維持にかかった費用をすべて控除し、税金を支払う前の事業で得られた利益のこと。これがマイナスということは、もはや事業維持が難しい状態であり、すぐにコスト改善や値上げを実施するなど、利益改善策を行う必要がある状態。将来の投資を自己資金で行うには、少なくとも5%は必要であり、上場会社であれば、業種にもよるが、10%は目指したいところである。
(6)当期純利益
営業利益から、支払うべき税金(法人税・地方税等)を控除した最終利益のこと。営業利益~当期純利益の間には、経常利益や税金前当期純利益があるが、今回は重要性の観点からスキップ。当期純利益が重要な理由は、①経営陣が自由に使える最終的なキャッシュ・利益であること、及び②株主に帰属する利益でもあること。
①について、当期純利益が確り稼げる企業は、将来への投資資金も余剰にあり、経営戦略上、次の一手を打つことができる。一方で②の観点で、株主からすると余計なお金を使わずに配当でしっかりと還元してほしい、という考えもある。
成長期にある企業は、株主も配当より将来投資を望み、将来期待から株価の値上がり益を狙う傾向にあるが、成熟期の企業は、事業投資への期待収益力が低いこともあり、配当を望む声が大きくなる。しっかりと、事業投資へのハードルレート(ROICなど)を上回るか、見極めは重要。
一番よくないのは、①にも②にも金を使わず、内部留保する企業であり、アクティビストの格好のターゲットとなる。このあたりの株主資本から見た資本コスト経営は、また別途まとめたい。
(7)M&Aで使われる段階利益
M&Aでは、何と言ってもValuationの際に、段階利益が重要になる。実務上は、M&Aでは将来の事業計画をベースにしたDCFが使われるが、これは公開されない内部情報も多く含まれるため、ディールにならないとつかわれない。初期的に、買収対象企業の株価/企業価値評価に使われる手法は、EV/EBITDAやPER、PBRあたりになる。段階利益が使われるEV/EBITDAやPERでは、やはりEV/EBITDAが一般的だろう。
市場評価ということで行くと、PERも使われるが、特別損益や実効税率の違いなど、一時的に異常な予想利益により、PERも異常値になるケースもあり、使いにくい場合が多い。
ということで、安定的な評価が得られるEV/EBITDAが好まれ、かつEBITDAは簡易的な営業CFでもあるため、キャッシュベースでEVを求められる。また、負債比率も織り込めるため、アプローチ的にもDCFに近いところもあり、買収の観点からはより好まれる。
たまに、営業利益ベースのPERも目にするが、支払利息前の利益であり、債権者に帰属する利益も含まれるため、そのまま株価倍率を使うことに抵抗もあり、EV/営業利益を使うなら、EV/EBITDAの方がキャッシュベースの観点から好まれるため、実は営業利益ベースの指標は目にしない。
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