M&A事例:シミックのMBO
2023年11月7日に、シミックホールディングスのMBOが発表された。薬価引き下げで治験の需要が減っており、非公開化して事業領域を多角化する、という目的によるものだが、それ以外に何か背景がないか、気になる。
本件を見て思ったことは、
・事業承継問題はなかったか。
・久しぶりの大型ワールド型MBO(ファンドの力を借りない)
「PBR1割れ」「オーナー系 or 事業承継問題」「実質無借金」であれば、ファンドの力を借りず、自力でのMBOも可能なので、同じ状況の上場企業には参考となるMBO事案だろう。
スキーム概要は以下の感じです。
①事業承継問題?
創業者であり、会長CEOの中村氏は1946年生まれ、配偶者でありCOOの大石氏は1957年生まれ。開示資料を見る限り、所謂創業家で40%超の株式を保有しているので、オーナー系企業ともいえるが、株主構成を見ると財産保全会社が株主になっているので、所謂相続税対策は対応できている。
となると、社内で次期社長が見当たらないか、上場企業としての事業成長に陰りが見えて来たのか、シミック売却には非公開化の方がやり易いからか。どれもありそうであるが、今の東証のガバナンス強化・投資家への迎合化を考えると、上場しながらそれらの対策を講じるのは、やり辛いはずなので、一旦非公開化するとなったのだろう。目立たない所で、他社に売却し、オーナーとしてExitするというのも年齢的にはあり得るシナリオと感じた。
②ワールド型MBO
ファンドによる資金支援を借りず、自力で非公開化するMBO。MBO発表直前のPBRは、0.8倍であり、実質無借金(現預金160億円:借入控除後)であり、買収資金も単独で銀行から借り入れることで、自力MBOができる見通し。
ちなみに、ワールドについては、2005年にメザニンを活用して、MBO/非上場化を行い、2018年に再上場している。今回も、株主構成や経営陣を刷新して、将来的に再上場するシナリオも考えられるので、このような柔軟な市場の出入れは、会社の成長フェーズの中で、もっとあっても良いと感じた。
事業環境の変化や市場ルールの厳格化が進む中では、低PBR・無借金経営・オーナー系という条件が揃う上場企業にとって、ワールド型MBOは、身近な選択肢になると思う。
③番外編 ~
経営者の起業~起動に乗る迄のストーリーは、いつも感動させられ、モチベーションになる。
M&A事例紹介というコラム制作作業の中でも、シミック創業者の中村さんの苦労話に出会えたのは、嬉しかった。非常に親近感が湧いたので、敢えて紹介させてもらいます。
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