M&A事例: JDSC(4418)によるメールカスタマーセンター買収(2023/8/17)
最近、忙しさを理由にM&A事例を見る手間を省いていましたが、夏休み期間と言うこともあり、色々見ていると、今日発表されたJDSC(4418)によるメールカスタマーセンター(MCC)買収発表が、スキーム的に何とも秀逸だったので、「へぇ~」と思い、勢いに任せて、記事にしてみました。
① 100%取得なのに、第三者割当増資
まず、このタイトルを見ると、「JDSCがMCCの株主から100%株式を取得したのか、ふ~ん」で終わるのですが、プレスリリースを見ると、タイトルが「MCCの第三者割当増資引受及び連結子会社化」。この時点で謎なのです。
② 種類株式
次に「2.本件 M&A 取引の方法」を見ると、「引受株式数 A種種類株式 100株」とあり、何故に「種類株式」。手続きが多くなるので、「いやいや、株式譲渡で良いでしょ」と言いたくなる。
③ 引受対価
「現金と借入(予定)を想定しており、決定次第改めてお知らせいたします。」とあり、引受対価が「借入」とはどういう意味だろう?対価に「現金」を使うのが通常で、自社「株式」や自社保有の不動産など「資産」を対価にする現物出資は、よくあるが。恐らく、引受対価の調達手段のことなのか、これはよくわからない。
④ 自社株買い
「本第三者割当増資は、メールカスタマーセンターの完全子会社化を目的としたものです。MCCは本第三者割当増資の実行後に、既存株主が保有する普通株式全株について自己株式取得を行い、その結果として当社議決権比率が100%となります。」の記載を見て、「あ~」となりました。これは、みなし配当を使って、MCCの100%親会社「トライステージ」の譲渡課税上のメリットを享受する目的ですね、という整理。
私自身が、M&A経験の中であまりで合わなかったですが、これは様々な案件に使えるので、今後ありですよね。やはり、M&A事例は非常に勉強になるので、今後も確りプレスリリースは見ていきたいものです。
【ポイント】
① みなし配当
ご存じの通り、子会社からの配当は基本親会社にとって、税務メリットがある。なので、100%親会社保有の自社株を取得することは、みなし配当扱いとなり、税務上のメリットを享受できる。従って、このスキームを通じて、トライステージは、MCC株式売却によるメリットを株式譲渡よりも享受することになる。
② 配当可能利益
とは言え、配当可能利益には限界がある。プレスを見ると純資産(23/2期)が15億円。第三者割当の引受額(出資額)が22億円。ざっくり、純資産=配当可能利益とすると、7億円足りなくなる。恐らくプレスには出ていないが、減資・準備金の取り崩しをして配当可能額の増加を行っている可能性は高く、そうなると対価の22億円分の自己株取得が可能となる。なお、利益剰余金がマイナスの場合、増資額>配当可能額となってしまうので、留意が必要。
③ 種類株式の必要性
何故、種類株式の発行にする必要があるか。仮に、普通株式の発行の場合、増資後に行われる「自社株取得」が事前に中止させられるリスクがある。とは言え、事前に種類株式の増資をしないと、②配当可能額の増加ができない。順番として、1)種類株式発行&増資 → 2)減資による配当可能額の増加 → 3)自社株取得となるのではないか。1)増資と2)減資を同じ決議・同じ登記手続きで済ませられるか、何とも言えないので、間をおいている可能性はある。従って、増資と自社株取得は同時ではなく、間を空けることから、先に行う増資は、種類株式にして、議決権に制限を設ける必要があるものと思料。無議決権の種類株式となると、100%自己株取得した際に、議決権のある株式がない状態となるため、同時に種類株式を普通株式に転換するなど、ここも工夫が必要。
個人的には、スキームよりも、JDSCのAIソリューションによるマーケティング効率化の方が気になりましたが。今後使えそうなので、「三者割譲渡」とか、勝手に命名して提案に入れたいと思いました。
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