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M&A事例:ニデックによるTAKISAWAの「同意なき」買収

M&Aについて
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2023/7/13に発表された、ニデック(6594)によるTAKISAWA(6121)へのTOBについて、取り上げたい。ポイントは以下の通り。

①『同意なき買収』は、もはやタブーではない。

②今後さらに増える予感。一方でMBOも増える。


ニデックによる『同意なき買収(= 敵対的買収)』で始まったが、TAKISAWA取締役会は、ニデックの買収提案を一方的に拒否することなく、最終的に賛同表明に回った案件。例え買収防衛策を導入していても実力・理論が備わり、真っ向勝負に来る買収者には、敵わなくなったとも見える。買収提案の内容を、感情的にではなく、『企業価値向上に資するか』という観点で冷静に評価し、判断した被買収者側についても、昔との違いを感じた。


①『同意なき買収』は、タブーではない

今回のニデックの『同意なき買収』を後押しするように、経産省も8/31に『企業買収における行動指針』を出しました。ここのM&Aコラムでも取り上げました >>こちら

本件は、いわゆる敵対的買収ですが、メディアの論調然り否定的な意見は、今回もほぼなかった。一昔前は、『敵対的買収』は、「けしからん」「お行儀が悪い」「非常識」など、感情的な反応が多かったですが、経済産業省や有識者の方々が、公正なM&Aの在り方について、『同意なき買収』が必ずしも悪いわけではなく、企業価値向上に資するか・株主利益の確保又は向上につながるか、に視点をおき、時間をかけて、論点を整理するというプロセスを確り踏襲したことの貢献は大きいと思います(少なくとも外見的にはそう見える)。

また、取引所側も呼応するように、日本の株式市場においても、

(1)上場企業と利害関係のある機関投資家に対して資金の出し手の意向を踏まえた議決権行使を促した『スチュワードシップ制度』を導入し、投資家としてのあるべき行動指針を示し、上場企業に対して外部からの監視体制の強化を図ったこと
(2)持ち合い解消の促進・社外取締役制度の導入・株主との対話の重視を踏まえた『コーポレートガバナンスコード』を取り入れ、企業側にも企業価値向上に向けた取り組みを促し、内部から株主重視への意識を改革したこと

上記、2点の効果もあり、以前と比べると上場企業による株主・投資家対応への意識改善効果は、非常に大きかった。

今回、ニデックは、買収防衛策を導入しているTAKISAWAに対して、真っ向から『同意なき買収』提案を行い、最終的にTAKISAWAの取締役会が賛同表明を行うという展開は、『このやり方もタブーではない』と改めて認識した経営者も多いのだと思います。
TAKISAWAの株主は、今回の買収提案において、ニデックより以下の提言・提案がなされている。

・10年間も企業価値向上が果たせていない上場企業の経営陣に今後経営を任せれますか?
・我々は、M&A実績も豊富で、かつ買収した企業は企業価値を向上させてますよ。
・従って、本件で100%+αのプレミアムを支払ってでも、買収後に更に価値を増大させる自信はありますし、ステークホルダー・工作機械業界、敷いては日本経済にとっても有益ですよ。

人間であれば、感情的に反論したいところ、これら上場企業を取り巻く環境の変化を理解し、ニデックによる買収提案を短期間で確りと評価し、冷静な判断を下したTAKISAWAの経営陣に対しても、個人的には評価したいと思う。なお、買収防衛の常套手段として、ステークホルダー(取引先・従業員・地域社会等)が反対する・離反するといった反論材料を経営陣が使うこともあるが、これについて、TAKISAWAの原田社長が『ステークホルダーにとってもニデックの買収提案を受け入れた方が幸せ』と語った点は、今後の『同意なき買収案件』にとっても極めて大きな意義があると感じた。

また、経済産業省が6/8に公表した『企業買収における行動指針(案)』であり、パブコメを求める内容ではあるものの、実質正式な行動指針が示され、これが今回の買収提案のきっかけになであり、決定打になったとも思う。将棋的にニデックとしては、『同意なき買収』のままTOBに進んでも、「詰め路」を読んでいたのかもしれません。

一応、本件の経緯を振り返ると、以下の通り。

6/8木 経済産業省: 「企業買収における行動指針(案)ー企業価値の向上と株主利益の確保に向けてー」を公表し、パブコメ実施。
7/13木 ニデック ⇒ TAKISAWA: 買収提案を公表。2022年1月~3月にも水面下で資本業務提携を提案。検討期間(60日間)を経て、9/14にTOB実施の意向。
7/28金 TAKISAWA ⇒ ニデック: 買収提案検討のため、必要情報リストを交付。また、9/13に意見表明することも公表。
8/1火 ニデック ⇒ TAKISAWA: 必要情報リストの回答書を提供(早っ!ニデック側は、準備万端)
8/17木 TAKISAWA ⇒ ニデック: ニデックとの面談・回答書を踏まえ、追加情報リストを提供
8/22火 ニデック ⇒ TAKISAWA: 追加情報リストの回答書を提供
8/28月 TAKISAWA ⇒ ニデック: 経営統合契約の主要条件書を交付(この時点で、TAKISAWAはTOB受入の覚悟を決めていたものと思います)
8/31木 経済産業省: 「企業買収における行動指針」を公表。
9/6水 TAKISAWA: 経営統合契約に代わる覚書を受領
9/13水 TAKISAWA: 経営統合契約を締結し、ニデックによるTOBに対して『賛同表明』を公表



②今後さらに増える予感。一方でMBOも増える。

今回の1件で、事業会社による『同意なき買収』が増えることが想定される。経済産業省による「企業買収における行動指針」が示され、上場企業は、好き勝手に買収提案を評価・判断することが極めて難しくなり、『企業価値向上に資するか』という客観的で分かりやすい評価をせざるを得なくなった状況を考慮して、ニデックと同様の『同意なき買収』に動くケースは考えられる。

また、過去数年間、株価が上がっていない上場企業は、全て買収対象と見られてもおかしくない状況であり、日頃から取締役会で、緊張感をもって企業価値向上の議論し、行動に移さなければ、恐らく買収防衛について、特別委員会の同意が得られないことにもなる。

アクティビストであれば、事業上のシナジーを理由に反論材料は集められると思うが、事業会社による『同意なき買収』への対抗措置のハードルはかなり高く、ましてやグローバルで展開している企業に関しては、M&Aに慣れている欧米の大手グローバル企業からの『同意なき買収』リスクに更に晒されることも気を付けなければならない。

買収リスクのある上場企業の中には、今回のように60日間という短期間で判断が難しい企業も多いことから、日頃からホワイトナイト探しを行っておくのも、重要となる。(以前の買収防衛策の検討プロセスで、60日間の検討期間があったが、これを踏襲しているものと推察。今後、これがスタンダードになると思われる)

なお、買収リスクがあり、それでも他の企業の傘下に入りたくない場合は、MBOをして非公開化することで、リスク回避する手段もあることから、MBO案件も今後増えることが想定される。
 

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