M&A事例:フルキャストによる求人検索アプリ運営のインプリ買収
2023年10月23日、フルキャストHDによるAppX株式会社の買収が発表された。具体的には、AppXは持株会社であり、傘下の株式会社インプリが実質の買収ターゲット。ハローワーク等の求人検索アプリを開発・運営している。
本件を見て思ったことは、
・売却タイミングが良い
・Valuationも申し分なし
こちらも小さな見過ごされそうなM&A案件ではあるが、売主として、恐らくベストなタイミングで売却したことから、人材ビジネスにおけるM&Aとして参考になるところが多い。
(1)ベストなタイミングでの売却
正直なところ、株式会社インプリと言う会社は、本件で初めて見た。直近業績は、以下の通り。
2022/3期: 売上高6.3億円、営業利益3億円、当期純利益1.8億円、純資産8.9億円、総資産17億円
2023/3期: 売上高6.3億円、営業利益2.9億円、当期純利益1.9億円、純資産10.7億円、総資産19億円
皆さんはどう思うか?
・売上高は6億円程度だが、営業利益率は約50%と極めて収益力のある会社。ROEも17.7%と高い。
・2期だけだが、事業が安定している。
・財務体質が良い。自己資本比率が、56%と高い。
一方で、気になる所は、以下の点ですね。
・何故、売却をしたのか?そのまま継続やIPOを狙うことはしなかったのか?
・今後の成長可能性は?
2期分の業績しか見ていないが、私の見方は、以下の通り。
① 売上が伸びていないということは、今のサービスは既に成熟フェーズに入っており、残存者利益を享受するのみの体制になっている
② 更なる成長をするなら、次のプラットフォーム開発を行い、積み上げていく必要がある。そこには、より大きな資本力・リソースが必要であり、インプリ単独で行うにはリスクが高い。
③ 今のサービスを継続すれば、5年間は売上を維持でき、安定的に運営できるが、その先の成長シナリオが見えない。
⇒ ①~③を踏まえ、単独で経営継続するよりも、大手の資本力・リソースを活用して、新たなサービス開発を大きなスケールで行った方が、インプリにとっては良い。フルキャストで開発中のサービスをインプリのプラットフォームで行うことも有り得る、など、違った観点での成長戦略を描くこともできる。
ということで、このまま継続運用をして、売上がジリジリ下がって行って、5年後に安値売るより、現時点で成長率は止まったが、高い利益率のまま高値で売却する方が会社の将来にとっては良いという決断は、極めて難しいが、ベストなタイミングで決断したことは非常に評価できる。恐らくビジネスモデル的にも借金が不要な事業なので、尚更売却を急ぐ理由もなかったはず。
余談だが、M&Aビジネスを行う中で、買われた会社のCEOが数年後に買収会社のCEOになっている例を、米国企業で数社見た。このような判断ができる社長であれば、将来日本でも買収会社のCEOになる、ということが普通に起きてもおかしくない思う。
(2)Valuationも申し分なし
売却金額が25.5億円であり、PERであれば、13.8x。営業利益倍率(時価総額/営業利益)であれば、8.8xと、上場企業並み。ちなみにフルキャストは、2022/12ベースのPER15.4x、営業利益倍率6.2x。
売却タイミングとしても、良いValuation評価がなされるタイミングであり、このタイミングで大手傘下に入った方が、影響度のレバレッジが効くという判断もあったと思う。
人材サービス業は、フィービジネスだが、ストック型であったり、数が多いので紹介もうまく経営すると、通常は無借金の会社が多い。1986年の労働者派遣法の施行以降、急速に業界が拡大していったが、一方で設立後、20-30年経っている派遣会社も多く、経営者も60歳を超えて来ていて、次の世代にバトンタッチをするタイミングに来ている。事業承継を考えると、他社への譲渡を検討する創業者は多いが、財務的に売却を急ぐ必要がないため、ゆっくり検討している例をよく目にする。
もし将来的に会社譲渡を検討する場合、売却タイミングが突然やってきたり、相手探しに時間が掛かったりするので、早めの会社譲渡を検討された方が良いことは言うまでもない。
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