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M&Aとは?|株式譲渡契約書(SPA)について①

M&Aについて
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「M&Aとは?」シリーズ
で、今回は、株式譲渡契約書(SPA: Share Perchase Agreement)を簡単にご紹介したい。法律家ではないので、あくまでもFAの観点から見たポイントですので、もし説明が不足している場合等、ご容赦ください。

まず、SPAの前に、株式譲渡取引の主な特徴として、以下の3つがあり、これを前提に契約書が構成されている。

①M&Aは返品できない 
株式を譲り受けた後の返品はできない。クーリングオフも存在しない。従って、これを前提に契約書が構成されている。契約締結~引き渡しまで、期間が短ければ、まだ良いが、許認可の取得などで、長くかかることもあり、契約締結~引き渡しまで間の解約条件は、明確に決められるので、注意が必要。

②日々価値が変動
株式市場を思い出してもらうと、分かり易い。株式の価値は日々変動するという前提で、契約書が作られることもある。未上場株式であれば、日々株価が付かないので、気にならないが、ただ、これも契約締結~引き渡しまで期間が長い場合、重要な交渉の論点となる。この場合、価格調整というメカニズムを入れ、契約締結から引き渡しまで期間が長いと、その間の変動分を契約で合意した価格に織り込むという方法を取る。

③情報の非対称性
売り手(対象会社)と買い手との間には、当然情報の非対称性が存在する。買い手は、買収検討期間において、対象会社に関する全ての情報を見ることはできないし、その正確性の検証もできない。従って、買い手はそのリスクを取って契約締結することになるが、全てのリスクを背負うことは無理なので、売り手とリスクの分担をすることになる。売り手側は、提供しなかった事実/情報に起因して対象会社に損害がもたらされた場合、又は売り手より提供された間違った情報をベースに価値評価のもと買収した場合、売却後の一定期間において、補償しなければならないという整理になる。従って、契約書の構成には、売り手側に、正しい情報を提供するインセンティブを与えることで、できる限り情報の非対称性を解消させようという機能も備わっている。

このような前提をもとにSPAの中身を紹介したい。


1. SPAの構成

- 前文: 当事者の設定、契約日、契約名称、略語の単語集など
- 株式譲渡の内容: 譲渡対象株式数・種類、譲渡価格(価格調整やEarn-out含)、譲渡実行日など規定
- クロージング方法: 株券の交付方法(株券不発行の場合の譲渡方法)、譲渡対価の支払方法など規定
- 前提条件: 株式譲渡実行の前提条件(前提条件が満たない場合、株式譲渡取り消しとなる)
- 表明及び保証: 買い手/売り手それぞれの表明保証を規定
- 契約当事者の義務: 買い手/売り手ごとにクロージング前/後それぞれの義務を規定
- 補償条項: 譲渡後に、表明保証違反による、買い手から売り手への補償内容を規定。特定されている事項については、別途特別補償として設定。なお、補償が発生しても、解除条項に抵触しない限り、譲渡はなされる。
- 解除条項: 該当すると、株式譲渡取引そのものがキャンセルとなる。
- 一般条項: 守秘義務、公表、費用、通知、裁判所管轄、誠実協議など。



2. 前文 

日本語のSPAではさらっと終わるケースが多いが、英語では結構しっかり記載されることもある。特に、略語を多く使う場合、一覧表が最初の方に出てくることがある。「いつ、●●(売り手)と●●(買い手)が株式譲渡に関して、SPAを締結した」というあくまでも形式的な内容。

中には、売り手や買い手が複数になるケースもあり、特に売り手については、持分割合や売却株数の割合、主導的な立場かどうかなどで契約上の責任を差をつけることも有り得る。PEファンドの場合、複数のエンティティで株を所有しているケースがあるが、同一相手が実質保有しているため、連帯責任となる。

最後に、略語の単語集を設けることもある。いちいち長い単語を使うのも面倒なので、略語は多様される。


3. 株式譲渡の内容

ここからが、本題。譲渡対象株式数・種類、譲渡価格価格調整Earn-out含)、譲渡実行日を規定する。

譲渡対象株式数・種類について、普通株式以外に新株予約権を発行している場合、纏めて買収したり、ストックオプションであれば、放棄したりする。

譲渡価格は、あくまでも株式取得の対価となる金額であり、実際に売り手に振り込む金額となる。ここでの論点は、価格調整Earn-out

価格調整の内容は、別のコラムで詳しく取り上げているが、もともとは、価格合意した時点から譲渡まで期間があると、その間に変動する価値も織り込みましょうという考え。やり方は、3通りあるが、最近はそのうちの2つの方式のハイブリッド型、つまり運転資本と純有利子負債を調整する方式が多い。純資産方式だと、BSを確り策定・確定し、第三者にも見てもらうプロセスとなり、時間を要するが、運転資本と純有利子負債であれば、確定する項目が少なく、BSを策定しなくても良い。
価格調整のロジックは、DCF法との親和性が高いため、どちらかというと上場会社のM&A案件に導入されることが多い印象。

Earn-Outについては、用語集にて紹介しているが、全部の譲渡について、合意しているものの一部の買収対価を後払いする方式。具体的には、クロージング日に一度対価を支払い、残り部分は事後的に支払う。価格調整に似ているところもあるが、根本的に違うところは、残りの支払いが将来業績の結果により変動するため、想定ができないところ。つまり、価格調整は価格の算定基準日~クロージング日までの期間の調整であるが、Earn-Outの場合、クロージング日~半年・1年後という期間となり、業績結果と言う蓋を開けないと分からない。どちらかというとインセンティブの意味合いの方が強い。
買い手からすると、将来の業績計画の達成可能性について、合意できないところ部分があるため、その実績を見てから、残りの対価を支払いたいという心理がある。ベンチャー企業など、急成長の企業の売却に適用されることが多い。用語集でも触れたが、Earn-Outは難しいところも多く、売り手としては避けたい条項。

譲渡実行日は、●●年●月●日と規定する場合もあれば、「又は売主・買主が別途合意する日」と追加記載されるケースがある。これは、独占禁止法の事前届け出やクリアランス期間(許認可所得にかかる期間)、第三者からの同意取得にかかる期間が読めない場合、このような規定がなされることが多い。クロスボーダー案件や海外展開を行っている会社のM&A案件で良く見られる。なお、買い手が上場会社の場合、連結子会社のタイミングが決算作業に影響が出る場合、四半期/下期/年度初めなど、キリの良いタイミングにクロージング日を持っていくこともある。

クロージングの場所について、売り手側オフィスで行う場合、弁護士事務所で行う場合など案件により様々。クロージング当日、前提条件の充足確認のため、書類原本が必要となり、その確認場所をどこにするか、ということもある。また、セレモニーをする場合、売り手オフィスにて行うこともある。クロスボーダーの場合、セキュリティの関係より、弁護士事務所で行うことが多かった。弁護士立ち合いの元、前提条件に関する書類を当日確認し、その後株券の受け渡し、資金の送金・着金確認をその場で行うことが一般的な流れ。当時のタイムスケジュール・To do・必要書類を事前に用意し、段取り通り進めて行く。

その他、実務的な話として、前提条件の充足状況の確認などクロージング手続きを経て、実際のクロージングを行う。ところで、クロージング方法も少しは気になる所。株券を交付している企業の場合、その株券を売り手から売主に手渡すと同時に、買い手から売り手に譲渡対価の資金を支払うことでクロージングは成立する。

但し、最近は、株券不発行の会社が多いため、その場合どのように譲渡するか。株券に代えて、売り手の押印済み株主名簿書換請求書を買い手に交付し、買い手が売り手に譲渡資金を支払うことでクロージングするケースが多い。


4. 前提条件

前提条件を満たすことができなければ、取引を実行しないという権利を行使することができる。売り手・買い手互いに前提条件を満たす義務を負っているが、特別な規定がない限り、前提条件を満たさない場合の責任は負わないことになっている。但し、努力義務は定められることが多いため、努力義務違反を問われることはある。

一般的には、売り手/買い手それぞれに義務となる前提条件を記載する。

売り手/買い手の義務として、以下のようなものがある。

①表明保証の正確性(双方)

②義務の順守(双方)

③競争法等、株式買取にあたって必要な許認可等を取得済みであること(双方)

④対象会社における譲渡承認決議(譲渡制限会社の場合、売り手)

MAC条項(Material Adverse Change:重大な悪化)の不存在。譲渡までは売り手傘下で対象会社は経営することになり、締結~譲渡までの期間の重要な後発事象のリスクは売り手が負うという整理。逆になかった場合、取引実行の義務を買い手が負うことにある。経済環境、株式市場、規制・環境の変化など外部要因はどう扱うかなどの問題もある。(売り手)

法的手続きの不存在(双方)Litigation Outとも言われ、取引自体の実行を裁判所に差し止めされるようなことはない、ということ。

書類の交付(クロージング時の役員の辞任届、クロージング書類)(双方だが、主に売り手)

同意書の取得(いわゆるChange of Controlのある契約における同意書対応)(売り手)

関連契約の締結(TSAや経営委任契約など)(双方)

資金調達の完了Financing Outとも呼ばれる。これは売り手にとっては、かなりダメージが大きいため、違約金(Reverse Termination Fee)を買い手に課すケースもある(買い手)

雇用の維持。キーマンクローズとも言われ、特に重要なキーマン(経営陣)がクロージング日までに退職した場合に、契約解除ができる(売り手)

クロージング日にも関係するが、仮に前提条件がなかなか充足せず(例えば、海外の競争法の許可など)、ズルズルとクロージング日が遅れる場合、エンドを決める目的でロングストップデートを設けるケースもある。これは、その日までに前提条件が充足しないと、この契約をは解除できるという規定。エンドを決めることで、前提条件充足を急かせる目的もある。なお、コベナンツ(誓約条項)にて前提条件充足のための努力義務も通常入る。


私のおすすめ本は、「M&A契約研究(理論・実証研究とモデル契約条項) 藤田友敬 編著」で、極めて実践的・実務的な内容で、実際に契約交渉などの実例をもとに、ディスカッションが展開されていくので、経験ある方は、頷きながら、理解できると思います。但し、基本的な内容というより、実務上での応用的な内容が多いので、経験者の方にお勧めです。今回のコラムも、こちらの本を参考にしています。

次回、5. 表明及び保証から説明します。

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