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M&Aプロセスのポイント(売り手向け): ④二次入札~クロージングまで

M&Aについて
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今回は、最後二次入札~クロージングまでの一連のプロセスのポイントを説明する。


【二次入札】
法的拘束力を伴う入札書。提示した入札+SPA Markupは、買い手の都合でキャンセルできない(前提条件はつけるが)。また、添付するSPA Markupも買い手版に修正した内容だが、売り手がその内容でOkと言えば、買い手は合意し、サインしなければいけない。(基本、そういうことは起きえないが)いずれにせよ、ここでの重要な点は以下の通り。

(1)Valuation
一次入札は、企業価値(株式価値+純有利子負債 *但し、Cash Free/Debt Freeベース)だが、二次入札では、株式価値ベース。有利子負債・現預金水準の計算は、詳細をDDで開示しているので、買い手は純有利子負債を算定の上、株式価値を計算する。なお、比較検討できるように、企業価値から株式価値の計算内容の記載を求めるケースもある。

(2)Earn-out
一次入札の際も少し触れたが、Earn-outを求めてくるケースがある。法的拘束力があるので、真剣に検討が必要。Earn-outは、所謂、分割払いのこと。但し、後払いの方は、将来時点の価値で払うという前提。例えば、100%の株式価値が100億円の場合、クロージング時に70%の70億円を支払い、30%分について、将来株式価値が2倍の200億円になれば、60億円になるという仕組み(結果、+30億円得する)。逆に1/2の50億円になると、15億円となる(15億円損する)。成長著しい対象会社で事業計画の確からしさが低いと買い手が判断する場合、提案されるケースが多い。売り手としては、将来のUpsideがありそうで、魅力的に映るが、売却後、これまでと同じ経営ができる保証はなく、親会社からの縛りがあって、思い通りの経営ができない中、利益を上げることができるかという点も留意が必要。

(3)独占交渉権の要求
買い手は、最後まで他の買い手と天秤にされたくないので、SPA交渉にあたって、数カ月間の独占交渉権を要求することが多い。売り手は、交渉力維持の観点から、最後までオークション方式を採用したいが、流石に契約交渉を並行するのは、事務負担がかかるので、応じるケースは多い。従って、独占交渉権を付与する前に、価格面や重要な交渉ポイントに限り目線を合わせておく必要はある。

(4)想定外の提案
売り手が想定しない提案を受けることもある。例えば、ある一部の事業について、経営方針の違いから、買い手は買収後に撤退(or 売却)したい、株式取得ではなく、事業譲渡のスキームを希望したいなど。株主がとりあえず売却することが目的で、売却後の経営に興味がない、会社自体がどうなっても、気にしないと割り切れるのであれば、経済的に良い条件を提示した買い手とSPA交渉に進めばいいが、ほとんどのケースはそうならない。売り手も売却後の経営方針、役職員への影響や処遇を気にするので、想定外の提案については、対象会社としっかり議論が必要(買い手も、影響度の大きなスキームであれば、DDの中で示唆してくるので、事前の想定はしておく必要はある)。


【最終候補者の選定】

(1)比較表の作成
各買い手の二次入札書とSPAドラフトをもとに、売り手の中で比較表を作り、最終交渉に臨む相手を選定する。まずは、価格面で高い買い手、買収にあたっての他の条件を見る。なお、前日になって、取締役会からの承諾が得られないので、入札を断念する買い手も現れることもしばしばある。その買い手に対しては、責を問う事はできないので、ドロップするリスクも想定しておく必要がある。

(2)買い手との価格交渉
買い手が提示する買収価格は、取締役会で承認を受け、提示してきている価格であり、そこから大幅UPの価格を引き出すことは困難だが、それでも最後の最後で、本当に買収したい本気の買い手は上乗せすることが多い。買い手も取締役会で案件責任者に、交渉用の価格の引き上げ権限(+●●%)を与えることもある。(売り手もやり過ぎるとお行儀が悪くなり、買い手は憤慨することもしばしばあるが、でもよく見る光景でもある)。基本的に、SPAの細かな交渉前に、売り手は複数の買い手と価格交渉を行い、Valuation目線が合った買い手とSPA交渉(慣れている買い手/売り手だと、弁護士同士だけで詰めることもある)に移ることになる。

(3)最終候補者数
(2)の通り、価格交渉をまず行いDeal killerとなる重要な条件があれば、価格と併せて交渉し、その中でSPA交渉を行う最終候補者を選定します。個人的な経験では、ほとんどのケースでは、最終候補者は1社。2社以上となると、並行して協議・交渉しますが、やはり時間がかかったり、売り手にかなりの負担を強いることになるので、よっぽど甲乙つけがたいケースを除いては、1社の方がシンプルで交渉に力も入るので、ベター。買い手も独占交渉権を1か月程度求めてくるので、実際には独占交渉に係る覚書を締結して、交渉に入ります。
買い手FAのケースで、並行して売り手が交渉していた記憶があります(実際していたかは、定かでない)が、買い手としては、交渉のリズム(レスが遅い)が悪く、非効率だった記憶があります。

【SPA交渉】

(1)交渉に向けた準備、交渉方法
売り手/買い手が参加する交渉の前に、双方の弁護士がSPAドラフトのやり取りを行い、文章で互いの意見を伝えあい、売り手/買い手立会いのもと、説明や考えを直接伝えるべき項目に絞って、交渉の場では議論します。相対交渉となると、すべてを押し通すことは実際には考えにくく、Give & takeで落し所を各条項で見出していくことになるので、相手と交渉になりそうな条項について、事前に担当弁護士には、譲れる所/譲れない所、その理由などを確り伝え、弁護士からは各条項のリスクに関するコメントをもらって、望むことが望ましいです。
交渉の場では、両者弁護士がリードして、進めていきますが、財務/会計/FAも参加して、それぞれ関連する担当については、適宜助言を行い、売り手/買い手は議論の中で、コメント/判断が必要なところで、発言していく流れになります。

(2)交渉内容
SPAの中では、「価格調整」「前提条件」「誓約事項」「表明保証」「補償」「特別補償」などが、交渉の中心になる。ネット検索や本を見れば、それぞれポイントが記載されているので、詳細は省くが、記憶の中でポイントとなる部分を個別に挙げたい。

・価格調整(Price Adjustment)
前回のSPAドラフトの部分で少し触れましたが、弁護士はあまり深入りしないので、FAがリードする必要がある。Locked BoxやBS調整など。売り手からすると面倒なので、「しない」という選択も当然あるが、クロージングタイミングとCash Flowの変動を見ないと、損することもある(例:クロージング日が1年で最も運転資本が拡大する時)。Locked BoxとBS調整の違いは、価格算定基準が異なり、それにより支払タイミングが違う。ざっくり言うと、BS調整ではクロージング日を算定基準とし、BSを算出した上で調整を行うので、最長でクロージング後、2-3か月経ないと最終的な価格が決定しない。一方でLocked Boxは、直近の決算期BSを算定基準として、そのBS基準日からクロージング日までに運転資本の増減(主に)を調整し、クロージング日に支払いが完結する。従って、PEファンドが売り手の場合、価格調整に応じたとしても、Locked Boxのケースが多い。

・前提条件/誓約事項(クロージング日まで)
前提条件は、規定された条件を満たさないとクロージングできない項目。特に多いのが、法令関連であり、競争法のクリアランス取得が代表的なもの。誓約事項は、クロージングまでの義務事項のこと。極論すると、クロージングまでに間に合わなくとも、クロージングはロジック上できてしまう(但し、補償ともつながるので、金銭的な損失は発生する可能性が生じますが)。代表的なものは、CoC(Change of Control:支配権の変更。契約書において、相手に親会社変更については事前同意を求められている場合がある)や事業運営の継続(配当などの資金流出も禁止)など。過去に拘りが強い買い手が、項目ごとにどちらにするか、1つずつ吟味した記憶があるが、事例も積み重なってきているし、一般的に項目ごとに凡そどちらに規定するかは、決まっている。売り手が別の国外の場合は、弁護士の助言が必要。

表明保証
・SPAは海外で使われたSPAをそのまま日本に導入したため、非常に分かりにくい。その典型が、表明保証条項。具体的には、SPA締結時及びクロージング時に規定された事項が真実かつ正確であることを表明し、その内容を保証すること。違反が判明された場合、クロージング後、一定期間(SPA交渉対象)内において、相手方に補償する。例えば、売り手が簿外資産なし、と回答しておいたにも関わらず、売却後に買い手の調査の中で、簿外資産が見つかった場合など。但し、売り手がDD期間において、簿外資産の存在/金額を開示した場合は、補償対象にはならない。
・よく議論になる項目は、税金・環境・リコール・訴訟・重大なクレームなどの簿外資産、会計基準など。日本特有であれば、残業未払など。買い手は入れれるだけ、入れてきます。話は逸れますが、過去に売り手が株券の存在について表明保証していたが、実はクロージング近くになって見当たらない、という事態がありました。さすがに、これを補償だのというより、売り手に法的に無くなった株券を無効にさせ、再発行させて事なきを得ましたが、クロージングタイミングがズレた為、事務負担が増大した記憶があるので、以後、どの案件でも売り手に株券を確認するようになりました。
・組織再編(特に合併や株主交換)は、当事者同士が一緒になるので、表明保証は機能しない(自分で自分を訴えることになる)と言われる。非消滅会社、子会社になる側の支配権を有する売り手株主に表明保証させることはあり得ますが。なお、上場企業であり、支配権を有する株主が存在しない場合、表明保証をできる株主がいなくなるため、当事者による形式的な表明保証に終わってしまうので、表明保証の意味を理解しておく必要はあります。

補償・特別補償
・補償期間、補償上限額、免責額、1件当たりの最低補償額などを決めます。表明保証保険を買い手が購入する場合、補償をすべて保険で賄うには、それぞれ保険内容と合わせる必要があります。なお、DDで発見された事項は、個別項目として特別補償として扱い、具体的に規定します。既に継続中の訴訟、リコール(今後発展する可能性のあるもの含む)、残業未払い(労基署から指摘される可能性のある未払い)など。
・買い手は、通常クロージング後にPMIの中で、表明保証の一斉点検をするので、売り手としては表明保証違反の訴えは、やってくる前提という認識は持っていた方が良いかもしれません。


【最終契約締結】
SPAのすべてのマークアップが終了した後、互いの取締役会を経て、正式に締結となります。プレスリリースや会見を行う場合、当日の事前準備も必要となります。最近では、原本をやり取りすることなく、PDFだけでサイナーページを送付し合うだけで終わるケースもあり、契約締結セレモニーなど、やらないケースも多いです。

【クロージング手続き】
SPAには、クロージングまでに必要な事項(CoCや許認可の取得、更新など)が定められており、買い手/売り手弁護士がチェックリストを作って、一つ一つつぶしこみながら進めます。最近では、日米のクロスボーダー案件(最悪国内案件)でも、中国の許認可が下りず、ディールブレイクになることもあるので、案件前より、ディール中止リスクをしっかり弁護士と議論しておくことも重要です。

【クロージング】
クロージングは、対象企業の株券の権利譲渡とその対価となる資金の支払いを同時に確認する作業。当然セレモニー的に行う場合も多く、買い手はPMIを見据えて、対象企業の役職員・ステークホルダーへのアナウンスを行うなど、既にDay1という位置づけで、意識としては、M&Aは過去のこと、将来の統合プロセスに入っていく第1歩という意識のケースがほとんどです。

おまけ
FA契約を対象会社と締結している場合、売却が成立した後、買い手は当然対象会社の情報すべてにアクセスが可能。従って、FA契約も見れる状態になる。もし、売り手FAがFA契約(特にフィーの部分)を買い手に知られたくない場合、対象会社ではなく、売り手とFA契約を締結する方が安全。特に気にしない場合、そのままでも構わない。

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