会社を売りたい方へ。会社売却の進め方【③DD、SPAドラフト作成まで】
前回(②案件開始~一次入札まで)に続き、一次入札後、DDからSPAドラフト作成までの流れに関するポイントをまとめる。
【DD】
DD対応は、多岐にわたり対象会社の負担がMaxに到達する。カテゴリーごとにポイントをまとめる。
(1)DDメンバーリスト
一次入札通過者には、早々にDDメンバーリストの作成を依頼する。ガンジャンピング問題がある先は、クリーンチームとそれ以外に分ける。クリーンメンバーに怪しげな人々(事業部門寄りのメンバー)がいれば、個別に確認が必要。なお、買い手のクリーンチームであっても、非常にセンシティブな情報については、外部アドバイザーのみとする場合もあるので、都度弁護士と確認しながら開示準備は慎重に進める。
(2)DD資料、VDRの準備
DD資料は、対象会社側の作業効率の観点から、一次のIM作成時の対象会社側に依頼リストの中でDD資料リストも入れておく。IM配布~二次開始まで対象会社側は、一旦作業がなくなるので、この間に資料準備やVDR業者の選定などしてもらう。なお、クリーンルーム向け資料か否か、資料ごとに弁護士の事前チェックも必要。また、1次意向表明書にDD時に調査したい項目を依頼しておけば、DD前に関連資料も準備できるので、効率的になる。話は逸れるが、VDRは今後Google Driveで良い気がするので、VDR業者もどこまで存続するか、個人的には気になります(ユーザー側のWindows縛りがキー)。
(3)2次プロセスレター、DD実施要領の準備
2次プロセスレターは、DDが始まって1週間ほど経ってから配布しても良い。まずは、一次通過した買い手にDDのHow toがまとまったDD実施要領を案内する。また、トップレベルのメンバーが参加するマネプレは、DDの前半に実施するのが通例なので、早々にスケジュール調整を始める(プロセスレター配布前でも良い)。
プロセスレターは、1次のものと70~80%ほど似ている。主に異なるところは、Valuationについて株式価値の算出を求めることになり、具体的に買い手に企業価値から株式価値への計算内容を記載してもらう。後は、法的拘束力を求めることになり、同時に提示するSPA Markupとともに、もし提示された内容で売り手が承諾すれば、買い手は提示した条件で契約成立させる義務が発生する。
価格だけでなく、買収後の事業成長戦略も売り手(特に対象会社)は気になるため、プロセスレターにて買い手に記載・提案を求める。
(4)マネプレ
対象企業の社長を含めた経営陣によるマネジメントプレゼンテーション。1~1.5時間で自社の強み・一通りプレゼンを説明し、その後Q&Aセッションを行う流れ。全体的に2~3時間ほどかかる。会社全体の戦略・事業方針、販売・生産・R&D・海外事業・事業計画・財務情報など、それぞれ項目があるので、社長が会社全体の戦略を話した後、各門担当役員が項目ごとにプレゼンするのが良い。
売り手にとっては、毎回同じプレゼンを買い手の数だけ行うので、正直どっと疲れる。ただ、買い手にとっては唯一直接アピールができ、そのプレゼンの中で、キーマンの特定もできる場であり、非常に貴重なセッション。買い手も自社のプレゼンをリクエストする場合があるので、これは対象会社にとっても良いので、受けた方が良い。
互いにとって生産的なセッションにすべく、買い手より事前に聞きたい質問があれば取り寄せ、プレゼン中に触れてもらうのが効果的。
買い手、その専門家含めて、人数制限をするのが通例。なお、ガンジャンピング問題があるので、マネプレ資料は、クリーンバージョンにするべく、ドラフト段階から早々に弁護士と共有し、機微情報チェックを行ってもらうのが良い。直前で削除が多いと、マネジメントが混乱することもしばしば。また、買い手が海外企業であれば、国によって競争法が異なるので、必ず海外対応ができるリーガルアドバイザーが必要。マネプレ資料は回収されることもあるが、基本はその後VDRなどでシェアされる。
(5)サイトビジット
日程的にマネプレとセットで実施される。情報管理上、訪問先の工場関係者に、買い手名を伏せておく。よく使われる例としては、監査人による実地監査目的という名目での訪問ということにする。買い手にも社名やロゴの入った袋など持って来ないようにDD実施要領で指示しておく。とはいえ、ぞろぞろと黒服姿の大人が数人工場を訪問するのは、稀なので、大抵工場の中では色々と噂が出回る。
コロナ禍でサイトビジットができず、M&Aが延期している例が多いと聞く。中には、リモートでサイトビジットを行う案件もあるらしい。対象会社職員がカメラをもって工場内部をビジットし、カメラ越しで買い手が見学するという仕組み。中には、ドローンを飛ばして、工場を上から見るケースなどもあるらしい。
なお、普段のサイトビジットは人数制限がかかるが、リモートだと、無制限になるため、実は工場の機械設備に詳しい人間が、工場から参加でき、中の設備がよくわかるという例も出ているようなので、メリットは少なからずあるが、やはり実際に目で見れないというデメリットの方が大きいと言える。
(6)Q&Aのやり取り
文章で買い手から質問を受け取り、売り手が回答するというやり取りが発生する。買い手が複数になると、大変な事態になるので、基本的には、1か月間の間、買い手Aの締め切りは、毎週月と木、買い手Bは、毎週火と金のように回答タイミングを分散させる。財務・法務など専門家からの質問がものすごい数になるので、買い手1社あたり、300-400個と質問数を制限するやり方もある(買い手はかなり不満だが)。
またしても余談だが、今も両者のFAが間に立って、エクセルのQAシートを毎日締め切り時にまとめて展開する方法を取っていることが多い。非常に非効率で、間違いも起きやすい。VDRでのQAシート機能を使うケースがあるが、こちらもゆくゆくはGoogle Sheetに集約される気がする。
(7)Sell BuyタイプのR&W保険
DD開始とともに売り手がパッケージとして用意したR&W保険を買い手に案内する。保険を使わず、表明保証を一杯入れてくる買い手は入札不利になりますよ、というメッセージを買い手にも送る。買い手が独自に保険会社を引っ張ってくるなら、そちらを使ってもらっても良いが、売り手が用意した保険は、既に助走している分、買い手にとってはとっかかりが早い。買い手は、早々に保険会社と具体的な協議に入っていくことになる。なお、環境リスクなど、個別リスクのうち保険対象にならない項目もあるので、売り手としては把握しておくひつようがある。
(8)専門家セッション
DD後半になるにつれ、詰めの作業のためQAシートでのやり取りではなく、専門家を交えた項目別セッション(電話会議)を設けることが通例。買い手からすると、QAシートのつぶしこみ。回答内容がクリアでなかったり、文字のやり取りでは理解できない部分を補足するセッション。互いにとって効率的であれば、セッティングした方が良い。
【SPAドラフトの準備】
DDの中間あたりに買い手候補に渡すイメージで、売り手・売り手のリーガルアドバイザーと一緒にドラフトを作成していく。買い手は、SPAドラフトにマークアップ(履歴付修正)を行い、2次入札時に提出する。SPAマークアップも法的拘束力の対象となるため、買い手の修正版の取り扱いとして、修正内容であれば、いつでもサインができるという状態で提出することになる。FAから見たポイントをまとめる。
(1)価格調整
交渉テーマの一つ(特にFAにとって)。売り手としては、手間がかからず、シンプルに損しない形で譲渡したい。従って、契約~クロージングまで期間が短い(~1か月間)であれば、基本的に価格調整なしで済ませたいところ。契約タイミングと、クロージングまでの期間の長さ、その間のCFの動き次第であるが、売り手が出すSPAドラフトでは、記載したとしても売り手有利な内容(Locked Boxなど)になるケースが多い。
買い手としては、やるならBS調整ということになるだろう。特に契約締結からクロージングまでの期間が長いケース、CFの季節変動が大きなケース、途中で税金の支払いなど、一時的にキャッシュが大きく動くケースでは、やはり価格調整を入れたいところ。
また、急成長の会社買収であったり、事業計画が強気な案件では、買い手はアーンアウトを導入するケースも多い。
(2)表明保証(R&W: Representations and Warranties)
基本的に、R&Wに限らず、契約書全体の文言などは弁護士に任せた方が良い。表明保証は、補償と紐づけになるので、肝になる部分の一つ。
事業計画への表明保証はできない、環境・リコール・税金など、期間が長い項目もあるので、これはビジネスや実態の観点を踏まえて、許容できる/できない個所は、弁護士の助言を基に、売り手が確り判断したい。
未上場企業の場合、財務諸表・会計基準へのR&Wは慎重にした方が良い。国内同士であれば、会社法431条でいう、一般会計原則「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする」という文言で会計基準のR&Wは抑えて、互いに理解し合い、買い手が簿外資産/負債を確り抑える、というのが売り手が落としたいところ。買い手が海外企業だと、これは理解しづらいので、買い手の財務アドバイザーに確りまとめてもらう必要がある。また、月次決算もまともに対応していない場合、管理会計ベースの数値まで表明保証するか、慎重に判断した方が良い。
(3)表明保証保険
買い手が購入する表明保証保険が一般的であるが、これがあると、売り手は補償期間において、表明保証違反により生じる経済的損害により発生する補償を売却後負うことはない。売り手にとっては売却後の潜在的リスクをクリアできるので、メリットは大きい。これをオークション参加の買い手に対して売却条件とする際の売り手の留意点を挙げておく。
・保険料
補償対象金額は買収金額の20-30%になる保険であれば、保険料は買収金額の2-3%程度。買い手がR&W保険を購入する前提であれば、買い手が払いものなので、売り手としては気にならないように見えるが、留意点として
買い手の考え方は、買収金額から2-3%控除するということになる。売り手としては、2-3%安くなっても、補償がなくなるメリットが大きい場合がある。例えば、売り手がPEファンドになると、売却後、売却代金を投資家に配分することになるので、売却後以降に支払いが発生すると非常に困ることになる。PEファンドが売り手の案件となると、クリアEXITを目指すうえで、R&W保険が必須になる案件は多い。
・英語版SPA
実は、国内案件であっても、保険会社の審査担当が外国人のケースがあり、そうなるとSPAを英語にする必要がある。最近、東京海上など、海外のR&W保険を扱う損保を買収したことにより、日本語サービスも充実しているようだが、その場合、買い手の保険料が高くなることもあるので、留意が必要。売り手にとっては、日本人同士なのに英語でSPA交渉をするのは、ナンセンスなので、避けたいところ。
・保険のカバー範囲
基本的には、もれなく買い手に保険でカバーさせる。SPAで確りここを抑えれば、売り手としては大丈夫。参考までに、R&W保険は、免責金額や保険上限額など決まっているので、保険対象にならない範囲が出てきても、それは売り手の責任とならないように、気を付ける必要がある。なお、最終的に買い手が購入する保険は、売り手には内容が分からないので、その前提でSPA交渉を進める必要がある。
(4)関連契約
ライセンス契約(売却によって買い手がライセンスを受けることができる/できないなど)、顧問契約(対象会社のキーマンを売却後一定期間、引継ぎのために勤務継続させる)、その他、TSA(Transition Service Agreement:移行期間中のサービス提供に係る契約書)など、譲渡に伴い、売却後に対象会社の事業継続にあたって一定期間移行に必要となる契約書もSPAとともに交渉する。基本的には、買い手が必要と考えることなので、最低限の付随契約は用意するものの、買い手の意向に従うのが良く、契約によっては買い手側がドラフトを用意することになる。
(5)ブレークアップフィー
通常、売り手が独占交渉違反で買い手に支払う場合に、ブレークアップフィーが発生しますが、私の個人経験では、リバースブレークアップフィー(買い手が売り手に支払う)の方が圧倒的に多かったです。
北米では、当たり前のようにSPAに出てきましたが、これは買い手が一定期間内(6か月など)に買収の前提条件を満たせず、クロージングできなかった場合、SPAは無効となり、売り手に対して支払うもので、買収金額の3~5%程度。
最近では、NVIDIAがSoftbankからArm買収の最終契約を成立させたにもかかわらず、中国の独禁法の許認可が取れなかったということで、SoftbankにUS$12.5bn(買収金額US$40の3.125%)のReverse Break-up Feeを支払うことになったと報じられた。
これを見ると日本企業はビックリして、徹底抗戦に入るのですが、グローバルの常識とは異なる認識になることもあるので、事前に十分理解しておく必要がある。なお、国内企業同士でこの条項を見ることはないのですが、例えば売り手がPEファンド(特に外資系)となると、担当者は日本支社の日本人ですが、決定権は海外にある場合があり、SPAドラフトにこの条項が登場するので、留意が必要です。
次回は最終回、【2次入札~クロージングまで】を記載します。
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