秘密保持契約書(NDA)に関するポイント
Non-Disclosure Agreementの略であり、CA(シーエー):Confidential Agreeementとも言われる。
M&Aの最初の手続きですが、売り手・買い手の最初の直接的なやり取りなので、双方の観点も含め、ポイントだけまとめます(法務のプロではないので、網羅性ではなく、アドバイザー経験に基づいたコメントです)。
NDAの形式
情報提供者に対して情報受領者が、提供された秘密情報の保持義務を負うもの。重要なことは、誰が情報提供者であり、誰が情報受領者か。DD*を想定すると自ずと答えは出てくる。金銭対価の企業買収・売却では、売り手が情報提供者であり、買い手が情報受領者となる。つまり、買い手は情報を出す必要がない。従って、売り手側は義務を負わないので、双方契約ではなく、買い手が売り手に差出式NDAの方が自然な形と言える。
但し、買い手が差し出すNDAの細かなことが気になるなら、一応事前に目を通した方が良いですが、買い手も最初の印象を良くしたいので、最近ではレアなケースです。(例:裁判管轄が売り手の本社でなく、買い手本社の地域に規定されるなど)
投資銀行やNDAに慣れた専門家は、具体的なM&Aを検討しているクライアントに対して、案件に関与しようと差出式NDAを(半ば一方的に)提出し、非公開情報を教えてもらおうとする手段を使うこともある。
一方で、株式対価の合併や株式交換・株式対価TOBなど、双方がクロスでDDを行ったり、合弁・事業提携のように互いに秘密情報を提供し合うケースでは、双方契約が必要。どちらかがドラフト作成⇒相手に提示して始まるが、どのような案件になるか、を想定しながらまずはチェックが必要。
M&AにおけるNDAの位置づけ
冒頭記載の通り、M&Aにおいて売り手・買い手間で最初にやり取りされるのが、NDA(エヌディーエー)。このやり取りから、相手の会社像も結構わかるので、相手に与える印象としての重要性もある。
相対取引なのか、オークション案件か、売り手・買い手のどちらのディールチームも、法務部門に丸投げにせず、案件特性に合わせて社内での認識合わせ(スピード感、要求度合いなど)や相手とやり取りする際の距離の取り方に留意が必要。
特に、オークション案件に参加している買い手の場合、NDAのやり取りにおける相手への印象には気を付ける必要がある。
(相手に与える印象例)
① 初回マークアップ(ドラフトチェック)に4日以上かかる
⇒ 「法務部門が弱いのか」「NDAに慣れていないのか」「弁護士に丸投げか」「NDAくらい自社でチェックできないのか」「法務部門が忙しいとは言え、本件は優先度が低いのか」「正直、本件には興味ないのか」「マークアップだらけのドラフトが返ってくるこないか」など、様々な印象を与えます。そうでなければ、ディールチームが、時間がかかる理由を含め、相手としっかりコミュニケーションをとることを勧めます。
② 初回マークアップの際、修正だらけのドラフトを返す
⇒ 今でこそ、M&A以外でもNDAを交わすケースが多くなっているので、オークション時のやり取りは、2往復~3往復(1往復は修正なしのパターン)のケースが多くなっている。通常、標準的ドラフトであれば、初回マークアップは3~5個くらい。すべてOkとするか、1~2個を再度返して、次の往復で合意に達するという流れを想定。従って、この感覚とかけ離れた初回マークアップが返ってきた際の印象は、「やりにくい相手だ」「今後のやり取りが大変」「弁護士に見てもらっているのか」「本当に契約までたどり着くのか」など、売り手を不安にさせる。この場合も、中にいるディールチームが、相手とコミュニケーションをとる必要がある。
③ 決して譲らない項目がある
⇒ NDAも当然契約書の1つ。但し、契約交渉は互いが譲歩して、中間地点を探るやり取りであり、その「会話」の中で、互いの信頼関係の構築も生まれる。最終契約書(株式譲渡契約書)の締結がゴールとすると、NDAは案件の出発点に過ぎない。そのNDAで、中間地点が容易に見い出せない場合、相手に与える印象は、②と同じですが、その度合いは非常に強いものがあります。
NDA締結の機会が増えると、会社としての重要な項目(契約期間、開示範囲、定義など)やその方針が明らかになってくるので、日頃から予め各条項に関する方針を定めておくのが、良い。但し、相手が競合他社で営業目的で流用される恐れがある、力関係からして厳しい条件でのNDAを締結せざるを得ない(案件当事者が重要顧客の場合)など、厳しい局面でのNDAのやり取りもあろうかと思いますので、その場合は、当然当てはまらない。案件の特性を考慮して対応することが重要。
NDAの中身
代表的な条項として「秘密情報の定義」「秘密情報の取り扱い」「利用目的」「秘密情報の返還義務」「損害賠償」「有効期限」「管轄」などあり、調べてると、色々なサイトで説明や留意点の記載がある。ここでは、レアな条項を少し紹介したい。
■契約期間が異常に長い(例:10年間など)
NDAの初回ドラフトとして記載された契約期間が非常に長い場合、それは相当強いメッセージ。何かしらの個別事情や背景がある可能性も否定できないので、マークアップのやり取りとは別に相手に聞く方が良い。個人的に経験した例では、買い手・売り手とも旧知の仲で、過去に揉め事もあった間柄だった。競合ではないものの、情報の取り扱いが非常に厳しい案件であり、M&Aが無事に成立すれば良いですが、10年間となると当時の関係者が残っているか、不安になるので、もちろん情報受領者としては短いに越したことはないです。通常のM&Aであれば、有効期間は1年~2年。3年でも売り手が受け入れるケースがある。
■Non Compete条項
競業避止条項。通常のNDAであれば、情報受領者となる買い手が、利用目的(M&Aの場合、M&A検討のために利用)以外で受領した秘密情報を利用することは禁止される、というところで止まる。しかし、競業避止となると、もう1歩進んでその買い手が、有効期間中(或いはケースによって長いこともある)は売り手と競合となる事業への新規参入を禁止される。
■Non Solicitation条項
従業員の引き抜き禁止条項。通常のNDAであれば、情報提供者となる売り手の従業員を買い手が引き抜くことまで禁止していない。なお、売り手とその従業員間では、別途NDAが存在するので、買い手まで影響が及ぶことがないが、それを売り手・買い手間のNDAでも明確に禁止する目的。なお、この条項がある場合、「引き抜くこと」の定義が記載されているので、すべての元売り手従業員を採用することまで否定していない。(例えば、たまたま人材エージェントを通じて、買い手に応募してきた場合など)
売り手におけるポイント
1. 買い手=競合先の場合、情報提供は慎重に
・オークション形式での案件が開始すると、直接相手に言えないこともあるので、NDAを締結する際、FA経由などで、情報提供にあたっての懸念事項を相手に伝える
・DDの際は、クリーンルームを設けるなど、事前に買い手に対して、情報提供方法を検討することも重要(ガンジャンピングの関係でそのように対応せざるを得ないこともある)
2. NDAだけでは不十分なケースも
・ガンジャンピングには気を付ける。特に、競争法で引っかかる案件の場合、海外の競争法が関わってくる場合、NDAで情報漏洩リスクが守られていても、そもそも情報提供自体が法に触れる可能性もある。
・国によって取扱いが異なるので、それぞれの国の競争法に詳しい弁護士を交えて、買い手に提供する資料・情報には、注意する必要がある。
3. 買い手によってNDAは柔軟に
・案件における売り手の交渉力やポジションを認識する必要がある。買い手からの差入式でいいか、双方契約の方が良いか。また、そのNDAの厳しさも案件の特性や相手との力関係によって柔軟に設計する必要がある。但し、売り手有利なオークションなどのケースでは、やり取りの効率性などを踏まえ、売り手側がNDAドラフトを作成するようにしたい。
4. NDA締結後は、速やかに情報開示
NDA締結後は重要。買い手からすると、NDAを締結するとすぐに非開示の重要な情報が提供されると想定しているので、M&Aプロセスが円滑に進む印象を与える意味からも、IMやInfo Package、プロセスレターなど、提供予定の情報はすぐに買い手に渡すことが重要。
買い手におけるポイント
1. オークションの場合、好印象を
「M&AにおけるNDAの位置づけ」で記載したように、オークションにおいては、まずは好印象を残すようなやり取りを心がけたい。従って、マークアップを返すのは2-3日以内(翌日であれば、ベスト)、修正箇所は5か所以内(標準的なNDAの場合)など、気を付ける。
2. 譲歩の姿勢
1.にも関連するが、NDAのやり取りの中で、譲歩の姿勢を示すことも重要。例えば、有効期間が初回ドラフトで3年の場合、1年で返すが、2年で戻ってくれば、他の条項とのバランスも見ながら、2年はOkするなど。
3. 書面のやり取りだけで終わらせない(必須ではない)
書面のやり取りで円滑に進む場合は気にしなくていいが、進まない場合、書面の機械的なやり取りではなく、直接会話をして互いの懸念する点、その背景を話すことが重要。想定外のことで、相手が気にしていることもよくある。(最近は、NDAも一般化されているので、書面だけで簡単に終わるケースがほとんどですが)
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